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zoom RSS 『サム・ホーソーンの事件簿V』について その1

<<   作成日時 : 2007/06/14 23:54   >>

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ある特定の“名探偵”を主人公とする短編集が、収録作の重複なしに、5冊も翻訳されるというのは、かなり珍しい出来事と言えるでしょう。

シャーロック・ホームズのいわゆる“聖典”も、長編を除くと5冊。ブラウン神父の短編集も5冊。アルセーヌ・ルパンも5冊。エルキュール・ポアロは、クリスティ文庫の計算で7冊。エラリイ・クイーンは、最近出た『間違いの悲劇』を入れ、クイーンのオリジナル作品ではない2冊の『事件簿』や『国際事件簿』を除くと、計8冊。あとは、アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』が5冊。

ホームズ、ブラウン神父、ルパン、ポアロ、クイーン、そして黒後家蜘蛛の会。5冊以上の短編集が翻訳されているケースは、いまパッと思い出せる限りでは、わずかこれだけです。しかし今月、ようやく次のランナーが現れました。エドワード・D・ホックの、サム・ホーソーン博士です。偉大な先輩探偵たちと肩を並べたことは、すばらしい快挙だと思います。

ホックという作家は、ほとんど短編ミステリだけで食っている、現代では極めて特異な存在です。彼の生み出したキャラクターの数は20を超えていて、なかでも怪盗ニック、レオポルド警部、スパイのジェフリー・ランドの3人は、それぞれすでに80篇以上の作品に登場していますから、作者のお気に入りなんでしょう。

このほか、オカルト探偵サイモン・アーク、ジプシー探偵ミハイ・ヴラド、西部の早撃ち探偵ベン・スノウ、インターポールのブルーとシャルム、貴族探偵のサー・ギデオン・パロ、百貨店バイヤーのスーザン・ホルト、女ボディガードのリビー・ノールズなどなど、キャラクターは非常に多彩ですが、おそらく近年で最も成功しているのが田舎医者のサム・ホーソーン博士。このシリーズは、現在69篇を数えていて、しかも、その全てが不可能犯罪ものというのが特徴です。

サム先生の登場する短編集は、日本で独自に編集されており、6月の新刊として発売されたのが5冊目ということになります。1冊あたり12篇ずつのサム先生もの+ボーナス短編1、という構成になっているので、『サム・ホーソーンの事件簿V』には49篇目から60篇目までが収録されていることになります。なお、今回のボーナス短編は『レオポルド警部の密室』。これは他のアンソロジーに何度も収録されたことのある作品なので、ホックファンとしてはもっと別な選択をして欲しかったところですが……。

短編で、しかも不可能犯罪ものばかり。そろそろタネが尽きそうなものですが、ホックは本当にありとあらゆるパターンの不可能状況を作り出すのを楽しんでいるかのように、今回もいろいろなシチュエーションの作品が並んでいます。では、一篇ずつ簡単に見ていきましょう。

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『消えたロードハウスの謎』

暗い夜、ダンスホールから車で帰途についた夫婦。いつも目印にしている標識のところを左折すれば家に帰れるはずなのに、なぜか見たこともないロードハウス(沿道娯楽場)にたどり着いてしまいます。引き返そうとした夫婦の車は、ロードハウスの駐車場で男を轢いてしまい、慌てて病院へ運ぶハメに。ところが、調べてみると男は頭を撃たれて死亡しており、しかも、ちゃんと存在していたはずのロードハウスはいくら探しても見つからず、かといって、目印の標識も動かされた形跡がないのでした。

【感想】 クイーンの傑作中編『神の灯』を思わせるような状況設定ですが、解決のしかたはまったく違います。巻頭を飾るにふさわしい、スマートな好短編です。
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『田舎道に立つ郵便受けの謎』

町はずれにある四軒の家。四つ並んだ郵便受けのうち、ある家に配達された本だけが、いつの間にか消えてしまうという事件が連続して起き、困った書店主に頼まれたサム先生は、配達の現場に立ち会うことに。ところが、彼らが見守っているなか、家から出てきた男が郵便受けから取り出した本は、包みを開いたとたん爆発し、男は死亡。しかし、包みの中身が正真正銘の本であったことは、事前にサム先生が確認しており、すり替える隙などなかったはずなのです。

【感想】 クレイトン・ロースンのある傑作を連想させるようなオチ。こちらはトリックに若干無理がありますが、犯人の意外性はなかなかです。
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『混み合った墓地の謎』

雪解け水で小川が溢れ、そばにある墓地の一部が水浸しになってしまったことから、埋まっている柩の移動が計画されます。墓地の理事でもあるサム先生は、その移動作業を朝から監督することになります。ところが、地面には全く掘り返された形跡がなかったのに、そこから掘り出されたばかり柩の角から血が流れ出し、開けてみると、もともと入っていた白骨の他に、墓地の理事だった男の遺体が発見されます。調べてみると、彼はまだ殺されたばかりだったのです。

【感想】 これまた、クイーンの『ギリシャ棺の謎』の一場面を思い出させる状況です。ホックのミスディレクション技術が光る作品です。
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『巨大ミミズクの謎』

執筆活動のかたわら、農作業もしている著名な劇作家の夫婦。ある早朝、ヒステリー状態になったその夫人から呼び出されたサム先生。農場に駆けつけると、劇作家は畑のなかで、胸の部分を押しつぶされて死んでいました。死体にはミミズクの羽根が付いており、まるで巨大なミミズクに襲われたように見えます。検死結果でも、大量の内出血が死因だと判明。しかし、畑には特になんの痕跡も残っておらず、どのように死んだのかがわからないのでした。

【感想】 状況設定はとても不思議ですが、どうやら枚数不足だったようで、解決は少々あっけない感じになってしまったのが残念です。
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『奇跡を起こす水瓶の謎』

地中海旅行から帰った夫婦。その友人が開いた“お帰りパーティ”に、サム先生も招待されます。旅行中、キリストが最初の奇跡を行ったとされる地に立ち寄った夫婦は、そこで奇蹟に使われたのと同種の水瓶を購入したと言い、パーティを催した女性におみやげとして渡します。パーティのあと、その女性からの電話を受けたサム先生が駆けつけると、密室状態の家の中で女性が死んでいました。そして、ただの水道水を入れたはずの水瓶の中身は、毒入りワインに変わっていたのです。

【感想】 これも登場人物が多いわりに、枚数が少ないようです。しかし中心となるアイデアは単純なので、かえって気付きにくい感じを受けます。
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『幽霊が出るテラスの謎』

友人夫婦に誘われて、小旅行に出かけたサム先生。『白鯨』の作者、メルヴィルにまつわる展示品を集めた、私設博物館を訪問することになります。博物館の裏手には、二階に半円形の石板敷きテラスのある家が建っており、そこにはメルヴィルの幽霊が出るという噂がありました。サム先生が興味を惹かれてその家を訪問したとき、怪しい緑色の光を追ってテラスに出た男の姿が、雷鳴とともに忽然と消えてしまいます。しかし、テラスから飛び降りた形跡はまったくないのです。

【感想】 この巻の収録作品のなかで、一番ケレン味あふれる作品。ちょっと強引な展開ではありますが、こういうのが私は大好きです。
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さて、長くなりました。後半の6篇については、項を改めたいと思います。
その2へ続きます。

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サム・ホーソーンものなど,ミステリー2冊
エドワード D.ホック, 木村 二郎訳「 サム・ホーソーンの事件簿 5 創元社文庫 (2007/6) ...続きを見る
Sixteen Tones
2007/06/18 15:42

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