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zoom RSS 『タイタニック号の殺人』 を読んで。

<<   作成日時 : 2007/06/22 23:51   >>

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新刊予告で、このタイトルを目にしたときには、「こんなの、絶対イロモノ作品に違いないよな」と思い、あまり食指が動きませんでした。

なのに、読もうという気になったのは、『ミステリーズ!』で読んだ若竹七海さんの書評で、わりと好意的に書かれていたからです。若竹さんといえば、『海神(ネプチューン)の晩餐』という長編で、タイタニックの沈没とともに失われた、ジャック・フットレルの原稿のことを中心ネタに据えた話を書いた人。さぞや思い入れがあるに違いありません。もっとも、『海神の晩餐』そのものは筋立てがゴテゴテしていて、あまりオススメできる本ではありませんけど。

私はすっかり忘れていましたが、この『タイタニック号の殺人』を書いたマックス・アラン・コリンズの本は、以前に読んでいました。『シカゴ探偵物語』と『想い出は奪えない』の2冊です。後者は正直言ってどんな話だか覚えてないのですが、『シカゴ』のほうは、映画『アンタッチャブル』と同じ1930年代のシカゴが舞台で、アル・カポネやエリオット・ネスなど実在の人物が物語にからんでくる私立探偵もの。ディクスン・カーが本格でやっていたことを、ハードボイルドでやろうとしている……つまり、歴史ハードボイルドというような感じでした。

『タイタニック号の殺人』も、この流れを汲んでいるようです。これも、実在の人物が登場する歴史ミステリだからです。『思考機械』の作者であるジャック・フットレルが探偵役。この人がタイタニック号の乗客で、しかも船と運命をともにした悲劇の作家であることは、『海神の晩餐』を読んだ方でなくても、ご存じのとおりです。が、驚いたことに、『タイタニック号の殺人』の登場人物はひとり残らず、実際に乗客だった実在の人物(被害者や犯人に割り当てられた人も含めて)だというのですから、ものすごい凝りようです。

で、このフットレル(と夫人)の探偵ぶりが面白い。さぞやヴァン・ドゥーゼン教授さながらの科学的推理……と思いきや、まるでハードボイルドな感じなのです。

(ちょっと引用)
クラフトンが(バルコニーから)身を乗り出すと、フットレルは彼を突き飛ばした。クラフトンの帽子と手袋とステッキが手から離れ、手袋は大理石の階段の上に灰色の手形のようにこぼれ落ち、帽子とステッキは下のリノリウムの床に音を立ててぶつかった。ポケットの中の小銭が雨のように降っていくまさにそのとき、フットレルが男の足首の、スパッツのすぐ上あたりをつかんで、熟した果物が小枝からぶら下がるようにその身体を宙吊りにした。
「おろしてくれ! おろしてくれ!」
「本当にいいのかい、ミスター・グラフトン、それが私に望むことなんだな? おろしてもらうことが?」
「いや、引き上げてくれ、すぐに、いますぐに!」
しかしフットレルは、大理石の階段とその横にある床を見下ろす男の身体が、まるで大きな振り子のように揺れるままにしていた。
(引用ここまで)

……てなぐあいです。作中でフットレルは自分のことを、「探偵小説を書いてる新聞記者」というふうに自称していて、その行動力のほうにウェイトが置かれた描写になっています。メイ夫人は、さしずめ私立探偵の美人秘書、というような役どころです。だけどこの夫婦、やたらとカッコイイ。作者の、フットレルに対する愛情というか、あこがれのようなものすら感じました。

事件のほうは密室殺人だったりするんですが、その謎解きはあっさりしたものです。その代わりに、タイタニック号の沈没にまつわる有名な二つの謎、「なぜ船長は救命ボートの乗船訓練を、急に取りやめたのか」・「なぜニューヨークへの入港を急いだのか」が、現実と鮮やかにブレンドされたフィクションのストーリーによって、見事に解決されます。徹底的な歴史考証の上に成り立っているだけに、妙な説得力があります。また、若竹さんも書いてますが、この物語は“客船ミステリ”としての面白さが非常にうまく書かれています。タイタニックという舞台装置が、ミステリ部分と綺麗に溶け合っているからです。

さて、来月の扶桑社ミステリーの刊行予定には、この本から始まった“大惨事シリーズ”の第2作、『ヒンデンブルク号の殺人』が入っています。これまた有名な飛行船の爆発・墜落事故を背景に、今度の探偵役は『聖者ニューヨークに現る』などの“セイント”シリーズでおなじみ、レスリー・チャーテリスだということです。これも面白そうですね。しかもこの“大惨事シリーズ”、まだまだ続くようです。

第3作は“The Pearl Harbor Murders”で、探偵役はエドガー・ライス・バロウズ……つまり『ターザン』や『火星シリーズ』や『ペルシダー』のあの作家です。そして第4作は“The Lusitania Murders”。探偵役は何とヴァン・ダインで、ピンカートン探偵社の女探偵を助手に従えての活躍が描かれるようです。次の第5作は“The London Blitz Murders”。探偵役は病理学者のスピルズベリー博士ですが、それを助けるのがアガサ・クリスティという組み合わせ。さらに第6作“The War of the Worlds Murder”ではオーソン・ウェルズが探偵役……と、羨ましいほどにやりたい放題してくれてます。

でも個人的には、ロンドン大空襲を舞台にするならクリスティよりディクスン・カーだよなあ、と思ってしまうところです。カーがあのさなか、『爬虫類館の殺人』の密室トリックを思いついたっていうのも有名な話ですし。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

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