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zoom RSS 『狂人の部屋』 を読んで。

<<   作成日時 : 2007/06/23 23:52   >>

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ステーマンを“ベルギーのクイーン”と呼ぶのは無理がありすぎでしたが、アルテを“フランスのカー”と呼ぶのも変だ、と思っていました。

ポール・アルテの翻訳第1号『第四の扉』については、カーよりむしろ新本格の作家たちとの類似性が、当初から指摘されていました。私の印象では柄刀一、歌野晶午、太田忠司あたりに近くて、トリックの発想が全く同じだった例もあります。アルテ本人はカーの大ファンであり、アラン・ツイスト博士という探偵役も、フェル博士を痩せさせたようなキャラのつもりで創造したらしいのですが、この名探偵は印象が薄く、元祖と比べると魅力の点で足下にも及びません。

このあたりは、あとの作品になるほど、少しずつ改善されてはいるようです。しかし今回出たツイスト博士シリーズの第5作『狂人の部屋』にいたっても、まだ未熟さが抜けきれているわけではありません。

これまでに訳出された中では、『赤い霧』のみがノンシリーズ作品で、ツイスト博士が登場しないのですが、これは新本格というより横溝正史風でした。やたらと、“○○年前に起きた、あの忌まわしい出来事が”みたいな因縁話が出てくるのもアルテの特徴の一つで、これも横溝を連想させます。

要するに、まだまだアルテは未完成な人で、個性がにじみ出るところまで行ってないと思うわけです。しかしそれでも、現代フランスからこういう作家が現れたのは喜ばしいことで、今後も翻訳は続けて欲しいのですが……。

『狂人の部屋』の訳者あとがきを読むと、この作品をアルテの最高傑作に推す声も多いとのこと。その真偽はともかく、こんなことは書くべきじゃないですね。だって、これが最高傑作であるのなら、今後翻訳されるのはこれより劣るものばかり、と宣言しちゃってるようなもんですから。とはいえ、邦訳が出た中で、これが一番面白かったのも事実です。次点は『第四の扉』かな。

また、この『狂人の部屋』は、正面きって密室に取り組んだという作品ではないのに、これまでの作品よりカー風の味わいがします。オカルティズムの味付けがうまくいってるせいでしょうか。もともと、トリックメーカーとしては脱力系に近く、プロットで読ませるタイプの作家なんだろうと、私は思っています。

今回、中心となるテーマは“呪われた部屋”。ソーン家の当主、ハリスの大叔父ハーヴィーは、幼い頃から文才を発揮していたのですが、やがて屋敷の2階にある部屋に2年以上もこもりきりとなり、分厚い原稿の束を書き上げます。その原稿を読んだハーヴィーの父親は、食事を受け付けなくなり、急激に衰弱して死んでしまいました。

実はその原稿には、父親が死ぬときの状況を、まるで予知していたかのように、正確に描写してあったというのです。家族はハーヴィーを狂人扱いして軟禁状態にしますが、ある日、奇怪な言葉を口走りながら、彼は急死してしまいます。そして、その言葉が予言していたように、さらに3人の家族が焼け死んだのでした。

以来、あかずの間になっていた部屋を、当主ハリスが書斎として使い始めたとたん、再び怪事が連発します。まず、ハリスが不可解な状況のもとで、その部屋の窓から墜落死し、その直後に部屋の中を見た彼の新妻は、卒倒して記憶を失います。しかも奇怪なことに、部屋の絨毯は百年前にハーヴィーが怪死したときと同じように、ぐっしょりと濡れていたのでした……。

アルテという作家は、叙述トリックを使うわけでもなく、カットバックなどの手法も少ないくせに、すごく要約しにくい物語を書く人です。『狂人の部屋』もその例にもれないのですが、枚数はアルテとしては少し多めで、詰め込み感のあった『死が招く』などと比べると、かなり読みやすくはなっています。

大叔父ハーヴィーと同じように、予知能力を持っているらしいハリスの弟が、次々に未来の出来事を言い当てたり、死んだはずのハリスが甦ったとしか思えないような出来事が起こるなど、オカルティックな道具立ては申しぶんありません。トリックも、まあ成功している部類でしょう。アルテがひとつ大きな勘違いをしているらしいのが、気になりましたが。

“スウェーデンのカー”というキャッチフレーズで、『誕生パーティの17人』(創元推理文庫)の一冊だけが翻訳され、それっきりになってしまったヤーン・エクストレムという作家がいますが、アルテがそれと同じような運命をたどらなかったのは幸いでした。

しかし、『狂人の部屋』とは、いまどき大胆な邦題ですね。フランス語の原題をそのまま訳しているだけなんでしょうけど。“狂人”という単語をタイトルで目にしたのは、リンド・ウォードの文字なし小説『狂人の太鼓』以来です。そのほかと言えば、チェスタトンの短編集『詩人と狂人たち』、あとは左右田謙の密室もの『狂人館の惨劇』ぐらいかな。最近復刊された、フレドリック・ブラウンの『さあ、きちがいになりなさい』なんていうのもありますが……。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

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