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キャッチには、コージーミステリと書いてあったこの本ですが、実際に読んでみると、ちょっと手の込んだロマンティック・サスペンスでした。 それもそのはず、作者のキャロライン・ヘインズというのは、キャロライン・バーンズという別名義で、ハーレクインから本を出している人。創元推理文庫もとうとう、ロマサスに本腰を入れ始めたってことでしょうか。この本が第1作となる“ミシシッピ・デルタ・シリーズ”の次回作も、近刊予定になっているくらいですから。 ロマサスとは、どういうジャンルなのか。詳しいことは、「ミステリ者のロマンス入門」という特集を組んだ、今年のミステリマガジン7月号を読んでいただくのが良いと思いますが、手っ取り早く知りたいという方のために、「話の展開がどれも同じ」と言い切る、若竹七海さんの非常に的確な説明を引用しておきましょう。 ちょっと引用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 男女が出会って、反感を覚える一方どこか惹かれあっちゃったりして、同時に事件が起こって、否応なく男女は協力せざるを得なくなって、事件の背後にいる黒幕が差し向けてくる刺客と戦いつつ愛を深め、時にはお互いを疑いつつ苦しみ、敵の悪事の証拠をつかみ、大団円だと思いきや男女どちらかの親友が実は敵の一味だとわかり、ようやく事件が落着し、男が女にプロポーズし、女がこれを受諾する(もしくは妊娠が判明する)……ロマンティック・サスペンスってほとんどこういう話でしょ。三冊も読めば、どの話だったか忘れてしまうぐらいだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・引用ここまで ま、実際には舞台が遠い過去のイギリスだったり、ヒロインの職業や取り巻く環境が異なっていたり、吸血鬼や狼男や魔女が出てきたり、という程度の違いはあるんですが、概ね若竹さんの指摘通りに話が進むのが、ロマサスというジャンルです。殺人などミステリ的な事件は起きるものの、探偵や警察の活躍は添え物程度の扱いで、じっくり推理を働かせるほどのものじゃありません。 とまあ、ナメきって読み始めたのですが……。つかみの部分が良く書けていたので、ついつい引き込まれてしまい、わりと面白く読めました。しかも、最後に明かされる犯人の正体がかなり意外で、隠し方は少々アンフェアですが、いちおう推理を組み立てるための材料は伏線としてちりばめられていることに、あとで気づかされる始末でした。 ヒロインがいて、男と出会って……という、ロマサスの根幹になるシーンが、100ページほど読まないと出てきません。そこにたどり着くまでの興味を引っ張るのが、ヒロイン・サラと幽霊・ジティのやりとり。サラは舞台女優の夢やぶれて、故郷に帰ってきた33歳の独身女。由緒あるディレイニー家の、最後のひとりという設定です。いっぽうジティは、サラのひいひいおばあちゃんの世話係だったとう黒人女性(そう、これはアメリカ南部の物語なんです)の幽霊です。 幽霊といっても、もちろん和風のおどろおどろしいものではなく、といってイギリスの古城に現れるようなのとも違う、独特の個性を持ったキャラクターです。しいて言えば、『GS美神』に出てくる“おキヌ”みたいな感じ(ちょいとわかりにくい例えですね)。ジティは1904年にかなりの高齢で亡くなっているのですが、幽霊の特権とばかりに女盛りのころの姿をしています。ナイスバディでファッションやヘアスタイルにもこだわりがあり、マーサ・スチュアートを崇拝しているようです。 住みかであるダリアハウスから離れられないことや、壁を通り抜けたりするところは幽霊らしいですが、歩くとミシミシ音を立てる描写もあります。「ディレイニー家にはあたしを養う義務があるんです。アフリカからうちのおっかさんをさらってきたとき、永遠に免れることのできない責務を負ったんだ」などと口は悪いながら、人生経験豊富なアドバイザー的存在として、時に毒舌混じりの忠告をしたりします。サラとジティのやりとりが軽妙なため、殺人や陰謀がらみのストーリーでありながら暗さはなく、物語も快適なテンポで進みます。 サラは両親を亡くし、豪邸ダリアハウスを相続したのですが、借金まみれでもあり、家を手放すか適当な金持ち男と結婚するか、ふたつにひとつというところまで追い込まれています。そこでジティが提案したのが、サラの同級生で銀行頭取の妻であるティンキーの飼い犬を誘拐し、身代金を奪ってしまおうという計画。サラは罪悪感にかられながらも、結局は切羽詰まってその計画を実行し、脅迫状を送りつけます。 そんなこととは知らないティンキーは、行動力のあるサラに身代金の受け渡し役を依頼します。そして見事に犬を取り戻してくれた(当たり前だ)サラの能力を、ティンキーは大げさに買いかぶり、探偵として調査を依頼したいと言い出すのです。依頼の内容は、ティンキーが昔好きだった、ハミルトンという男の一家を襲った悲劇の原因と、その真相を探り出して欲しいというものでした。 ハミルトンの両親は、それぞれ悲劇的な事故で死んだということしか伝わっておらず、ハミルトンの姉は今も精神病院に幽閉されたまま。ハミルトン本人もヨーロッパに行ったきりで、しかも一連の事件が起きたのは20年も前のこと。お金のために渋々、その依頼を受けたサラでしたが、探偵としてのノウハウもなく、行き当たりばったりに調べていくだけ。しかし、それが思わぬ方向に進んでいき、サラの調査が引き金となって新たな殺人まで起きてしまいます。 舞台は現代なのですが、科学捜査などというものとは無縁の世界であり、まるで捕物帖を読んでいるような時代感覚です。これはジティが、年齢200歳になんなんとする幽霊である、ということを理由とする部分もあるでしょうが、アメリカ南部の街のセレブたちを中心とした環境というのは、ある意味こんなユルさを備えているということなのかもしれません。 ただやはり、この物語は女性による女性のための物語だなあ、という印象は、男の私にはぬぐえないものでした。そういう物語をこそ、男が読んで楽しむということにも、意義は感じるんですが。あ、それとこの本の訳者、下山真紀さんという方は、これが初の訳書だとのことですが、文章はしっかりしていますし、表現力もまずまずだと感じました。今後の活躍が大いに期待されます。 ※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。 |
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