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百均ミステリを読んでいくシリーズ第2回目は、吉岡道夫の『紫陽花寺殺人事件』と、田中文雄の『冬の旅殺人事件』を取り上げてみます。 『紫陽花寺殺人事件』の作者・吉岡道夫の名前には覚えがありました。戦国時代を舞台に、毛利元就などを主人公にした架空戦記ものをいくつか書いているほか、“ぶらり平蔵・活人剣”という時代小説のシリーズを書いている人です。でも、もともとはミステリ作家で、『メビウスの魔魚』(講談社)とか、『殺人回廊』(カッパノベルズ)など、メジャーな出版社からも本を出していました。フリーライター・叶雅之を探偵役にしたシリーズがいくつかあったはずですが、現在はすべて絶版になっているようです。 さて、『紫陽花寺殺人事件』のサブタイトルには「カラスの事件ファイル」とあり、それで私は、ふと思い出したことがあります。『署名(サイン)はカラス』(大陸書房)という長編があったことを。それで、蔵書の山をほじくり返してみると……出てきました。『紫陽花寺殺人事件』は、『署名(サイン)はカラス』のタイトルを変えたものだったのです。 さらに調べてみると、驚いたことに、前回レヴューした伊吹卓也の 『納沙布岬殺人事件』も、実は 『納沙布・死の霧笛』(双葉社)という別題で、同じ作者が出していたことが判明しました。つまり、伊吹卓也と吉岡道夫は同一人物だったのです。いったいどうして、同じダイソーミステリーなのに、ペンネームを使い分けているんでしょうか。理由はよくわかりません。 タイトルの『紫陽花寺殺人事件』と、サブタイトルの「カラスの事件ファイル」からは、紫陽花寺で殺人が起き、カラスというニックネームの探偵が捜査に乗り出す、というイメージが湧きますが、これが全然違います。紫陽花寺では殺人は起きませんし、カラスというのは得体の知れない脅迫状を書いている男のことです。ですから、もとの『署名(サイン)はカラス』というタイトルのほうが、中身を的確に示しています。 物語は、オンポロアパートで1羽のカラスと一緒に暮らしている正体不明の男が、「木下英明」という人物あての脅迫状をワープロで書いているシーンから始まります。文面には恨みつらみが書き連ねられ、「カラス」という署名で締めくくられています。男は脅迫状を投函すると、その足で映画を観に行きます。その映画は、最近売り出し中の二枚目俳優、立花舜介の主演でした。 さて、その立花の本名が、実は木下英明というのでした。女癖が悪く、過去に女性がらみのトラブルを何度も起こしている立花は、自分のもとに届いた脅迫状におびえ、劇団の同期生である石動達夫に相談します。石動は、今は立花の妻になっている冴子と、惹かれあっていながら進展しなかった過去があり、その冴子に対する同情心もあって、脅迫状への対処を引き受けます。 石動は、脅迫状のことに気付いた冴子からも相談を受け、夫婦仲の破綻している彼女と、結局は結ばれてしまいます。そんな中、立花に捨てられたために自殺した女のヒモの存在が浮かび上がり、石動はその男に会いに行きます。しかし、男に口止め料を払った直後、立花は自宅マンションで撲殺死体となって発見されるのでした……。 ありがちな設定、ありがちな登場人物、そしてありがちなストーリーに、取って付けたようなベッドシーン。前半3分の1ぐらいまで読んだところで、結末までの流れがすべて見えてしまうような、底の浅い物語です。同じ設定であっても、展開をもう少しひねれば、なんとか面白いものにできたかもしれませんが、そういう努力の跡が感じられないのです。この作品は、100円でも高い、といわざるを得ないでしょう。 『冬の旅殺人事件』の田中文雄の名は、特撮映画ファンなら周知のものでしょう。和製ドラキュラ映画『血を吸う眼』や『血を吸う薔薇』とか、小松左京原作の『エスパイ』、そして泡坂妻夫の『乱れからくり』(松田優作主演)などのプロデューサーです。1984年に『ゴジラ』が復活したときの製作にも名を連ねていましたし、『ゴジラvsキングギドラ』のノヴェライズも手がけています。 作家としては、ハヤカワのSFコンテストに佳作入選した『夏の旅人』でデビュー。ミステリあり、SFあり、ホラーあり、架空戦記ありで、ペンネームも草薙圭一郎、滝原満などをジャンルによって使い分けています。ダイソー・ミステリーの4冊目が、この滝原満名義による『シンデレラ殺人劇場』なので、これまた伊吹卓也=吉岡道夫と同様、同じ作家が別名義で名前を連ねていることになります。何なんでしょうか、これは。 タイトルの『冬の旅殺人事件』からは、やっぱりシューベルトの歌曲集『冬の旅』をモチーフにした事件を連想してしまいますが……これまた、内容とあまりマッチしていない題名になっています。ハードボイルドタッチのミステリですが、内容は本格寄りのストーリー展開になっており、200冊を超える著作を残しているだけあって、筆致は手慣れたものです。 物語のスタート前にプロローグがあり、ある若者がパチンコ屋の用心棒に追いかけられたあげく、相手を射殺してしまう、というシーンが描かれます。実はこれが、物語の核心につながるエピソードでもあるのですが、少々アンフェアな書き方になってしまっています。まあ、本格ミステリじゃないから、と言われればそれまでですが。 舞台は北関東の城下町、滝上市。そこで開業している、元刑事の私立探偵・鬼塚の事務所に、ひとりの若者が訪ねてきます。仙葉国夫と名乗るその若者は、二浪中の浪人生。最初の受験に失敗してから、東京の予備校に一年間通っていたと話し、その時にクラスメートだった女性の消息を探り出して欲しい、と依頼します。 しかし、彼女についてわかっているのは“徳大寺しおり”という名前だけ。住所も出身地もわからず、写真もありません。仙葉は自分が描いたスケッチを提示したうえで、最近この町で彼女を見かけたと言います。たったそれだけの手がかりでしたが、純朴な感じの依頼人に親しみを感じた鬼塚は、その依頼を引き受けます。 しかし、予備校で調査してみてもそんな名前の女性はおらず、手がかりは途絶えます。仙葉にそのことを報告しようと、彼のアパートを訪ねると、何故かすでに引っ越していました。当惑した鬼塚が事務所に帰ると、仙葉からの伝言があり、ある喫茶店で落ち合うことになります。その矢先、鬼塚は街角で、仙葉が描いたスケッチによく似た女性を見かけ、尾行します。 女性の家を突き止めた上で、鬼塚は仙葉と待ち合わせた喫茶に向かいます。しかし、行ってみると彼は席を立っていました。気になった鬼塚は店を出て、周辺を歩き回るうち、近くの川で後頭部を割られた死体となっている仙葉を発見します。彼の母親から、調査の続行を依頼された鬼塚は、例の女性が地元の高校の教師であり、その父親が警察幹部であることを知るのでした……。 まあ、ハードボイルドな私立探偵小説だと思って読めば、それなりに楽しむことはできるでしょう。仙葉を殺した真犯人も、かなり意外な人物に設定されています。しかし、展開そのものは本格寄りなのに、フェアな書き方にはなっていないので、ちょっとどっちつかずな印象を受けます。鬼塚には若い女性の秘書がいるような、典型的な設定になっているにも関わらず、あまり活かされていません。それでも、単に物語の展開を追いかけるだけなら、100円以上の読み応えは充分にあります。 ※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。 |
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