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zoom RSS 『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』 を読んだ男(w)。

<<   作成日時 : 2007/09/25 23:57   >>

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ウィリアム・ブリテンの短編集が出ると聞いて、「おおお、ストラング先生の事件簿が光文社から出るのか」と思った人、手を挙げて。ハーイ。

ブリテンという人は、エドワード・D・ホックと生まれ年も出身地(ロチェスター)も同じ、しかも書いているのが短編パズラーばかりで、「EQMM」の常連寄稿者だったというところまで共通している作家です。日本でもミステリマガジンや、今はなき「EQ」にホックと並んでしばしば登場していました。そのブリテンが創造した探偵キャラがレナード・ストラング先生という、ハイスクールで科学を教えている定年間近の教師。学校がらみの事件が多いので凶悪犯罪はあまり出てきませんが、消失などの不可能状況を設定したものが多いのです。

最近のブリテンは、ビル・ブリトゥンという別名義でジュヴナイルに特化してしまい、ストラング先生ものの新作を書いていません。しかし未訳作品も、まだ10篇以上残っていますし、そろそろ1冊にまとめて欲しいところなのですが……。ちょっと残念です。今回出たのはブリテンのパロディシリーズのほうで、版元は論創社。まあ、これが売れれば、ストラング先生も単行本になる可能性が出てくるでしょうから、良しとしましょう。このタイトルに惹かれて買っちゃう人がいることを考えれば、賢明な選択だったと言えるかもしれません。

パロディものは全部で11短編あり、これまで未訳だったのは『ジョン・クリーシーを読んだ少女』のみ。とはいえ、『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』と『アガサ・クリスティを読んだ少年』以外は、単行本に収録されたことがありません。ですから、こうしてまとめて読めるのはありがたいですね。また、ボーナス・トラックとして収録された短編のうち2つは、内容的に言って「ディケンズを読んだ男」と「ホームズを読んだ男」みたいなものなので、これもファンには嬉しいところでしょう。ただし、『うそつき』は集英社のアンソロジー『海外推理傑作選3 黒い殺人者』で読んだことがあります。

収録作品・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』
12才の時にカーの『テニスコートの謎』を読んで以来、熱烈なファンになり、いつの日か、当の巨匠すらも当惑せしめるような密室殺人をやってのけてみせる、と決意していた男。叔父が遺言を書き換えて、自分を外してしまうつもりであることを知った彼は、一世一代のトリックを考案し、叔父の殺害に臨んだのですが……。アンソロジーにもしばしば収録された、シリーズ代表作。皮肉なオチが効いています。

『エラリー・クイーンを読んだ男』
45才の時にクイーンの『ローマ帽子の謎』を読んで以来、熱烈なファンになり、いつの日か、エラリー以外の誰もが気付かないような手がかりをひとつふたつ用いて、謎を解き明かしたいと願っていた80才の男。ある日、彼の入居している老人ホーム内で金貨の盗難事件が起きましたが、容疑者と目される孤独な老人を身体検査しても見つからず……。金貨の隠し方が老人ホームならでは。なかなかの佳作です。

『レックス・スタウトを読んだ女』
スタウトのネロ・ウルフものを全作読破しようとしているのは、サーカスのデブ女、ガート。彼女とコンビを組んでいるぼくは、やせ男のロバート。ある日蛇遣いのリリが殺されるという事件が起き、ガートは警察を呼ぶ前に犯人を捕まえると言って、自分のテントに全員を集め、謎解きを始めたのでしたが……。これはウルフものの雰囲気を、うまくミスディレクションに利用した作品。思わず膝を叩くオチでした。

『アガサ・クリスティを読んだ少年』
小さな村に交換留学生として来ていた、几帳面な性格のベルギー人の少年。彼は図書館にあるクリスティのポワロものに読みふけり、強く影響を受けていました。ある日この村に、おかしな行動をとる大学生の一団が現れ、村人たちを困惑させるという事件が起きます。彼らの真意は何なのかを、ポワロばりに推理した少年は、自分の顔にヒゲを書いて現れ……。意外な真相と、少年のユーモラスな行動が面白い佳品です。

『コナン・ドイルを読んだ男』
まったく心当たりのない、意味不明の手紙を受け取った、ワトスンという名の男。そこに国家機関のメンバーらしい謎の男が現れ、スパイがらみの外交上の問題に、否応なしに巻き込まれてしまいます。ある文字の組み合わせを発見しなければならなくなり、ホームズものの中にそのヒントが隠されているらしいのですが……。『赤髪』ネタかと思わせる出だしです。オチは気が利いていますが、設定は無理矢理かも。

『G・K・チェスタトンを読んだ男』
チェスタトンのブラウン神父ものに心酔しているケニー神父。彼の友人である弁護士が死んでいるのが発見され、警察は、死体の下からポルノ写真のスライドが見つかったことから、倫理的に悩んだ末の自殺として処理しようとします。彼の性格をよく知っているケニー神父は、その点に不審を感じ、再捜査を要求するのでした……。これはけっこう普通の短編。パロディ臭はほとんどないので、うす味な印象です。

『ダシール・ハメットを読んだ男』
図書館で書架係をつとめている、ミステリマニアの老人。ある日彼は館長に呼ばれ、ハードボイルド好きの図書館局長と、本格好きのミステリ収集家に引き合わされます。収集家は、この図書館内のどこかに隠した『マルタの鷹』を1時間以内に発見できれば、彼の初版本コレクションをすべて図書館に寄贈する、というのですが……。ハメットというより、クイーンふうの謎解きもの。日本人にはやや難しいオチです。

『ジョルジュ・シムノンを読んだ男』
2人で交代しながら配送する途中、運転していないときにはいつも、シムノンのメグレ警部ものに読みふけっている、大型トラックのドライバーの男。大量の貴重な美術コレクションを、金持ちの新しい屋敷に運び込む仕事を請け負った彼は、屋敷の警備のために雇われたという男に出会い、がらんどうの屋敷の中に美術品を搬入するのですが……。シリーズ中で、一番不出来な作品。メグレの雰囲気もありません。

『ジョン・クリーシーを読んだ少女』
学校の宿題のため、J・J・マリック(クリーシーの別名義)の『ギデオンと部下たち』(未訳)を読んでいる少女。刑事である父親が、ホテルで起きた殺人事件の被害者が残したダイイング・メッセージの謎に頭を悩ませていることを知ります。父親から事件のことを詳しく聞き出した少女は、解決のためのヒントを思いつき……。これも、英語に関する知識が必要なオチですが、なかなかスマートにできています。

『アイザック・アシモフを読んだ男たち』
アシモフの『黒後家蜘蛛の会』シリーズの愛読者である5人の男たちが集まった食事会の席上、ゲストとして招かれた新聞記者が、問題を提示します。それは、この町で百貨店を経営している男が、店のショーウィンドウの中に置いてある金庫の組み合わせ番号を当てられた者に、中に入れてある金を進呈するというキャンペーンの謎解きでした……。雰囲気は良く出ていますが、謎はやや簡単すぎるかもしれません。

『読まなかった男』
結婚したばかりの妻を、自動車事故で亡くしてしまったモンティ。妻を轢いた男フォードは、偶発事故であるとの主張が認められ、審問会でもそういう結論になりました。モンティはフォードを建築中の家に呼び、レンガの壁を完成させる手伝いをして欲しいと頼みます。妻の死の状況をあれこれ尋ねるモンティはやがて……。ショートショートです。オチは想像がついてしまいますが、伏線の張り方はお見事。

『ザレツキーの鎖』
脱出芸を得意とするマジシャンと、彼が副業としてコソ泥をやっていると確信している、元刑事の私立探偵。2人は金持ちの屋敷に招かれています。金持ちはマジシャンに、伝説的な脱出芸の名手・ザレツキーが使っていた手錠付きの鎖を、1時間以内に外すことができなければ、自分の持っている犯罪の証拠を探偵に引き渡すと言うのですが……。本書中、最もトリッキーな作品であり、ラストの切れ味も抜群です。

『うそつき』
国立生物学研究所の保安課長のオフィスに、事務員をしている老人が取り乱した様子でやってきます。飼っていたカナリアが殺されたのを皮切りに、戸棚から2ダースものやすりが落ちてきたり、狼男のマスクをかぶった男が現れたりと、身辺で不審な出来事が続いており、自分は頭が狂い始めているのではないか、と言うのですが……。一連の出来事がひとつの真相につながるプロットは、非常に良くできています。

『プラット街イレギュラーズ』
警察の介入をいやがる住人たちばかりが住んでいる、プラット街というスラム。ここの新入りである質屋が、店に泥棒が入ったと言って警察を呼ぼうとします。そんなことをしても事件は解決しないばかりか、余計なトラブルを抱えることになるため、古着屋のジェイクはスラムの他の住人たちとプラット街イレギュラーズを結成するのでした……。ひねりのきいた佳品。ちょっとホロリ系の結末になっています。
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通して読んでみると、最初の4篇がやはり面白く、あとの作品ほど、少しずつ無理が目立ってくる気がします。ヴァン・ダインとか、ロス・マクドナルドあたりのパロディなら、もっと書きやすかったのではないか、と思ったりするんですが、編集部からのオーダーはなかったんでしょうか。ボーナストラックのパズラー3篇は、いずれも水準以上の出来になっています。でも、どうせなら、ノンシリーズの佳品『三匹の鮫』も入れておいて欲しかったですね。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

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