貼雑帖(はりまぜちょう)

アクセスカウンタ

zoom RSS 『女王国の城』 を読んで。

<<   作成日時 : 2007/11/03 23:53   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

エヘン。今回は、「読者への挑戦」の段階で、犯人とその動機を含め、8割方までは真相を見抜くことができました。自慢してもいいですか?(w)

ただし、それには前提があって、読んでいるうちにひらめいたこと……この『女王国の城』(東京創元社)は、三津田信三のアレと似たような考え方でプロットを作ってるんではないか、と途中で気付き、そしてもう一つ、この作品のメイントリック(というか、メインロジック?)が、多湖輝の『頭の体操』第3集(光文社)に収録されている、あるパズル問題と似た構造だと気付いたこと。それらが、私の貧弱な推理能力を大いに刺激してくれたから、ではあります。

有栖川有栖には『謎は解ける方が魅力的』(講談社)というエッセイ集があることからして、必ずしも「読者との知恵比べには絶対勝とう」というタイプではないのかも知れません。いや、私はこのエッセイ集は読んでないので、どんなことを書いているのかは知りませんが。ただ、このところ「有栖川有栖氏絶賛!」というようなコピーの付いたミステリに、まったくロクなのがなかったことや、彼自身が編んだアンソロジー『有栖川有栖の鉄道ミステリ・ライブラリ−』(角川書店)がイマイチな内容だったこと、そして4年ぶりの火村シリーズ長編、『乱鴉の島』(新潮社)がパッとしなかったことなどから、有栖川氏には作家的限界が来ちゃったのかいな、という気がしていました。そんなわけで、『女王国の城』にはあまり期待していませんでした。

これまでの江神シリーズの中では、前作『双頭の悪魔』(創元推理文庫)がベストであるというのは、ほとんどの衆目が一致するところでしょう。出版されたのは1992年。このときは、作中年代とあまりズレはなかったわけですが、『女王国の城』は『双頭の悪魔』の半年後、1990年5月頃のお話です。15年も間があき、時代も大きく変わって、書き手も読み手も歳を食っちゃった今、シリーズの続き物を書くというのはかなり大変だったろうと思います。ま、小さいところでおかしな点はいくつかあるものの、バブル爛熟期だった当時の雰囲気を壊さないで書き上げているのはさすがです。アリスとマリアの関係も、相変わらず微妙なままですし。

もっとも、今回の舞台は世間から隔絶された山奥にある宗教団体の本部と、その城下町ともいうべき小さな宗教都市なので、これまでと同様クローズドサークルものであることには変わりありません。浮世離れした世界の中で、やれ就職だ卒論だといった現実的な話が、学生たちの間でさえ飾り物程度にしか出てこない代わりに、UFOだのSETI計画だのといった話で変な方向に盛り上がってしまうのが、この作品の問題点です。純粋にロジカルなパズル小説として考えると、こういうものは邪魔でしかなく、実際、ストーリーとは関係ないオタク話に終始するだけなので、目くらましとしても機能していません。ヴァン・ダインのペダンティズムと同じです。全500ページのうち、少なくとも100ページぐらいは、余裕で削ってしまえたでしょう。

作中の宗教団体や事件にモデルは存在しない、とあとがきに書かれていますが、客観的に見てこの「人類協会」という新興宗教が、オウム真理教とラエリアン・ムーブメントを主なヒントにして創造されたものであることは間違いないと思います。作中年代からの実際の17年間を生きてきた私たちにとって、ある意味、こういうものは(マスコミ報道を通して)非常に身近な存在でもあったわけで、そこには想像力を羽ばたかせる余地もたくさんあったでしょう。その割には、飛び抜けた特徴のない作品になってしまっていると思いますが、本筋であるロジックの流れは綺麗で、面白く読むことができました。前半の冗長さがなければ、そして活劇シーンにいきなりカフカが出てきたりしなければ、もっと良かったんですが。

『双頭の悪魔』の事件から半年、ミス研の部長にして探偵役・江神二郎は大学で迎える8年目。卒業できてもできなくても、これが最後の一年というところ。その江神が、数日前に突然姿を消し、どうやら怪しい新興宗教「人類協会」の総本山である、神倉の町に向かったことがわかって、ミス研のメンバーたちはそのあとを追います。神倉は、外部からたどり着ける道は一本だけという山奥にあり、町の住人の9割が信者で、その他の人々も協会と関わりを持たずには生活できないという宗教都市でした。

町には普通の旅館が一軒しかなく、江神はそこには泊まっていませんでした。やがて、彼が「人類協会」の本部である建物に向かったと知ったミス研の面々は、まるで現代美術館か何かのような(大阪万博のときの住友童話館みたいな感じ、と描写されています。懐かしい……)、そのブーメラン型の「城」に入ろうとしますが、江神は「100時間の瞑想」に入っているからという理由で、会わせてもらえません。なすすべない面々は、周囲のあちこちを探検したりするのですが、何を恐れているのか「城」の警備は厳重で、どこにも入れる隙はないのでした。

さて、この土地では11年前、まだ「人類協会」が前身の「天命開示の会」であったころ、奇妙な事件が起きていました。町はずれにあるあばら屋で、鼻つまみ者だった若者が射殺死体で発見されたのですが、現場は密室状態であり、凶器のピストルはとうとう発見されず、真相はわからずじまいになっていたのです。同じ旅館に泊まり合わせた元警官の老人からその話を聞いた翌朝、旅館に「人類協会」の幹部から電話がかかり、江神や他のメンバーに対する誤解が解けたので、本部まで会いに来て欲しいと言われ、ようやくご対面となります。

「城」の中には、「聖洞」と呼ばれる彼らの聖地がありました。そこは、この「人類協会」の会祖が、宇宙からの来訪者ペリパリと出会ったとされる場所で、そこにペリパリが再臨するときを信者たちは待ち望んでいるのです。そのため、「聖洞」の入り口には「待機所」と呼ばれる小部屋があり、常に入口を監視する信者が立っているだけでなく、監視カメラも24時間、再臨の瞬間を捉えるために稼働していました。

しかし、その日の夕方、待機所で聖洞を見張っていた信者が、何者かに絞殺されるという事件が起きます。記録用のノートには乱れた文字で「ペリハ」と書かれており、殺害時刻を記録しているはずのビデオテープは持ち去られていました。しかし、警察の介入を恐れる協会の幹部は、自分たちで犯人を発見して自首させると強硬に主張し、ミス研のメンバーを含む部外者7人は全員、「城」の中で軟禁状態にされてしまうのでした……。

事件はこのあと連続殺人へと発展し、やがて11年前の事件と密接に関係していることも判明するなど、本格ミステリとしての定番も次々に登場して、俄然フーダニットぽくなっていきます。物語はこのへんから快調に飛ばしはじめ、各人のアリバイ調べと、協会内の特殊な人間関係に関するデータを交互に提示しながら、軟禁状態からどうにかして脱出しようとミス研のメンバーがあがくシーンとも絡んで、非常にスムーズに進みます。そんな中、重要な小道具として使われているのが打ち上げ花火で、これが通常のミステリとは全く違った意図で使われているところは独創的。この作品中では最も印象に残りました。

伏線が適度に敷かれているので、犯人が誰かを考えつくことができれば、あとからその動機を推測することもできます。そういうふうに考えていくことによって、事件の全体像が見えてくるところは、なかなかの快感でした。つまりトリックよりもロジックが重視されているところは相変わらずですが、特異な環境がミスディレクションの役割も果たしているので、すべてを見通すのは難しいと思います。最後になってようやく、江神がここに向かった理由が明かされ、それが事件の核心部分にも関連しているという仕掛けもしゃれていて、スッキリした読後感を与えてくれる物語に仕上がっていると言えるでしょう。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『女王国の城』 を読んで。 貼雑帖(はりまぜちょう)/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる