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zoom RSS 『少年検閲官』 を読んで。

<<   作成日時 : 2007/12/13 23:50   >>

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北山ミステリでは毎度おなじみ、仕掛けと物理トリックの波状攻撃、そのための奇妙な舞台設定。でも本書は、見せ方が少し変わっています。

『『クロック城』殺人事件』(講談社文庫。『』がダブっているのは間違いにあらず。ネット検索のことを考えてないタイトルの付け方ですね……。北山氏本人のブログ「終末観測所」にある「既刊情報」のページでも、この表記になっています)でメフィスト賞を受賞して以来、新本格と脱格系の間の、かなり独特のポジションにいる北山猛邦ですが、この『少年検閲官』(東京創元社)には山田正紀の『ミステリ・オペラ』(ハヤカワ文庫)の影響が強く感じられます。『ミステリ・オペラ』に付けられたコピーには「本格推理のあらゆるガジェットを投入した壮大な構想の全体ミステリ」とありますが、この「ガジェット」というヤツが、『少年検閲官』でも非常に重要な概念として扱われているんです。

世界観の根っことか、探偵役の性格付けといった部分についても、似通った部分があります。しかし、作品に漂うムードは全く異なります。もし『少年検閲官』が映像化されるようなことがあれば、この物語で中心的な役割を果たすクリス、エノ、ユーリという3人の少年たちには、いわゆる腐女子が泣いて喜ぶようなキャスティングが行われることでしょう。コピーには「メフィスト賞作家の新境地」なんて書いてあり、これまでの北山作品と比べて文章は読みやすくなっていますが、そのぶん「城シリーズ」と比べると軽くて、ライトノヴェルのミステリを読んでいるような感覚もあります。

最近、北山氏は雑誌「ミステリーズ!」(東京創元社)に、氏にしては(?)普通の本格ミステリ短篇を連載しているんですが、そのシリーズに出てくる気弱な名探偵・音野順とそのワトスン役の組み合わせは、基本的な性格付けが違うものの、『少年検閲官』の探偵役であるエノと、語り手であるクリスのコンビに、ムードがよく似ている気がします。どちらもキャラ萌え狙いのようなところがちょっとあって、そういう趣味のない私は、いくらか居心地の悪さも感じました。

クリスとエノの2人は、どちらも14歳という設定です。それで、私は今年公開された『神童』という映画のことを連想しました。この映画の主役を張った成海璃子という女優も当時14歳で、その年齢らしからぬ落ち着きと演技力には驚かされたんです。クリスとエノも多分に大人びていて、周囲の大人たちをいくらか醒めた目線で見ており、それでいながら、少年ならではのみずみずしい感性も持ち合わせている(エノはかなり特殊な造型ですが)、というあたりが、『神童』のヒロインと共通しているように感じたわけです。

ただ、『少年検閲官』を映画化するとすれば、スクリーンは幻想的なものにしかできないでしょう。極めてユニークな叙述系のトリックが使われているからです。これは、作品中に叙述トリックがあるということを事前に知っていても、その中身がどういうものか、全く予測不可能な種類のもので、その独創性には脱帽しました。この作品世界でしか成立しないトリックではあるものの、ここまでやるのか、という驚きには相当なものがあったんです。

しかし、不満なところもたくさんあります。少なくとも、古典的な本格ミステリを好む方には、納得できないことだらけと言えるでしょう。この物語の舞台は、日本のある小さくて閉鎖的な町なんですが、それを包み込む環境が、現実社会とは大きく違います。具体的に言うと、これは一種のパラレルワールドもの。「デジタル化」とか「衛星写真」などという言葉や、デビットカードみたいなものが出てくることからすると、時代的には現代とほぼ同じらしいのですが、1960年あたりから以後の歴史が全く違うものになっているのです。

ハッキリ書かれてはいませんが、おそらくは地球温暖化の影響が現実世界より早く進行していて、国土がすっかり水没した国もあり、日本や英国といった島国は特に脅威にさらされている、という設定。しかしこれは物語的には重要なことではありません。最も現実と異なるのは、この世界では「書物」というものが、すべてなくなっている、ということ。クリスの言葉を借りれば「何人も書物の類を所有してはならない。もしもそれらを隠し持っていることが判明すれば、隠し場所もろともすべて灰にされる。僕は書物というものがどんな形をしているのかさえ、よく知らない」という状態なのです。このあたり、レイ・ブラッドベリの名作SF小説『華氏451度』の設定とほぼ同じ感じですけれど、この物語中では違和感がかなりつきまといます。

たとえば、この規制は日本だけでなく世界的なことのようなんですが……キリスト教圏では「聖書」もなくなっちゃったんでしょうか。ちょっと想像しにくいことではあります。宗教に対する統制などは、特に行われていないようなんですが。また、この世界にも昔は書物があったわけで、英国人であるクリスは、父親が好きだった「ミステリ」に興味を惹かれ、その「ミステリ」が最期まで生き残っていたと言われている日本に、その痕跡を求めて旅してきた、ということになっています。クリスは父親から、ドイルやクリスティの作品についての話を聞かされており、ホームズ譚のひとつ『六つのナポレオン』については、人に語って聞かせられるほど、しっかり記憶しています。

つまり、クリスの父親世代なら、書物がどういうものだったか知っているわけで、大昔の伝説などではないんです。クリスは前述したように14歳ですから、亡くなったという父親が40代の時に生まれた子どもだったとしても、生きていればせいぜいまだ50代の終わりくらい。その年代の人間が絶滅しているというのならともかく、単に「書物」が思想的な弾圧を受けて「焚書」されただけなのであれば、もっと大勢の人間が「書物」のことを記憶ぐらいはしていてしかるべきでしょう。また、キリイ先生という音楽家も登場し、楽譜に書いてあるフォルテ記号の話をするシーンもあるんですが、楽譜は「書物の類」には入らないんでしょうか。

といったぐあいで、細かい矛盾点は即座に山ほど浮かびあがります。もう、世界観の設定は破綻していると言っても良いでしょう。そのために、飛びきり奇怪な「小屋の消失」や「首無し大量殺人」といった謎のインパクトが、ものすごく薄れてしまっています。ですから、この作品は一種の壮大な思考実験の書みたいなものと思ったほうが良いのかもしれません。続編も出版される予定のようですから、ひょっとしたらここで列挙していったような矛盾点については、今後解決されていくのかもしれないですが。

タイトルになっている「検閲官」とは、隠された書物を摘発する役目を帯びた人物のこと。検閲官は書物に関して警察以上の権力を持っています。そもそも、書物がタブーとなった原因は、どうやら犯罪を誘発するものと認識されたからのようで、住民はすべて政府によるマインド・コントロールを受けているような印象です。犯罪発生率は非常に低いので、警察組織は縮小・弱体化しています。教科書がないため、子どもたちはラジオを使って勉強しており、学校は存在していません。

誰もミステリ本を持っていないにもかかわらず、「探偵」という言葉は生き残っていますが、それがどういうものなのか、町の人々は誰も知らず、森に住んでいる影のような存在として認識されています。4年ほど前から、家々にこっそり侵入し、壁にペンキで赤い十字架のようなものを書き残す人物が跳梁していますが、その正体も「探偵」だと噂されています。「探偵」が住むとされている森では、白い女性の幽霊がたびたび目撃されており、森に入った大人は首無し死体で発見される、という事件も頻発していますが、町の人々にとって「探偵」は自然災害のようなものと認識されていて、誰もそれを問題視したりしていません。警察に通報する、ということにすら、思い至らないのです。

クリスは、車椅子の少年・ユーリと知り合い、彼の父親が経営する寂れた宿に泊まって、この不思議な町の話を聞き、「探偵」が自分の知っている「ミステリ」の中の存在と全く違うものとして認識されていることや、赤い十字架の謎に興味を覚えます。そうするうちにも奇怪な事件が次々と起こり、ついには自警隊の隊長をつとめていた人物が、「探偵」によって森の奥の湖に浮かぶボートの上で殺されるところを、取り囲む人々が目撃し、しかも「探偵」は消失してしまう、という事件が起きたのでした……。

「ミステリ」の「ガジェット」を所持している人物がいなければ、こんな事件は起きないはず。つまり、誰かがそれを持っているのだというわけで、「少年検閲官」エノが派遣されてくるのは、物語が3分の2ほど進んだところから。それ以後はテンポもあがり、前半で提示されていた数々の謎が、鮮やかに解決されていきます。現実には無理のある物理トリックもありますが、ともかくもすべてが合理的に説明されるところはお見事と言っておきましょう。それだけに、世界観のほころびが、いろいろと気にもなってしまうのですけれど。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

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