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zoom RSS 『果断 隠蔽捜査2』 を読んで。

<<   作成日時 : 2007/12/20 23:51   >>

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昨年、吉川英治文学新人賞を受賞した『隠蔽捜査』の続編。ストーリー上のつながりはほとんどないので、単独で読んでも問題はありません。

というか、『果断 隠蔽捜査2』(新潮社)というタイトルには、商業主義的なニオイがプンプンします。この本に書かれた物語には、「隠蔽捜査」という言葉に当てはまるものが見あたらないからです。主人公は同じですが、彼を取り巻く環境は異なっていますし、作品そのもののタッチもかなり違います。ですから、まるで『隠蔽捜査』(新潮社)を必ず先に読んでね、と言わんばかりの印象を与えるタイトルはどうかと思います。前作が賞をとった作品であることとも、無縁ではないんでしょう。

その吉川英治文学新人賞というのも、ある意味おかしな賞で、毎年「いったいどこが新人なんだ」というような、すでに実績がある作家ばかりが受賞しています。ミステリ読みとしてはそれほど注目度は高くないんですが、ノミネート作品にはミステリ系のものがけっこうあり、今年の例で言えば桜庭一樹の『赤朽葉家の伝説』(東京創元社)が入っています。 今野敏は綾辻行人より5歳上、デビューはまだ学生だった1978年ですから、ほぼ30年近いキャリアがあり、著書も100冊を超えているはず。「新人賞」という言葉には非常に違和感があります。

私は今野敏の作品はそんなに読んでなかったので、去年『隠蔽捜査』がちょっと評判になったとき、『ST 警視庁科学特捜班』(講談社文庫)シリーズ以来、久しぶりに手に取ってみて、「ああ、こういう普通の警察小説も書く人だったんだ」という驚きを感じました。今野敏という人に対しては、たとえば高橋克彦とか門田泰明といった、トンデモ系の作家というイメージが強かったからです。ミニ政党の比例代表に名を連ねて参議院選挙の泡沫候補になったりしたこともあって、ややイタイ印象もありましたし。

『隠蔽捜査』は警察を舞台としてはいるものの、キャリア官僚の世界に焦点が当たっているため、ちょっと松本清張ふうなハードさのある作品でした。暴力団員の射殺に端を発した単純な事件と見えたものが、やがて警察内部の隠蔽体質に関わってくるという、まことに現代的なテーマが扱われていて、今野敏らしからぬ(?)リアリズムと、スピーディな展開が読みどころでした。今回の『果断 隠蔽捜査2』もそういうところは同じで、やや孤独感のある主人公のために、警察小説といってもハードボイルドに近い味わいがあります。

大きく異なっているのは、前作で書かれた家庭内の事件のせいで、主人公・竜崎がエリートコースから外れ、大森警察署の署長職に追いやられてしまってからの事件だということ。船越英一郎の「その男、副署長」じゃありませんが、書類にハンコを押すのが主な仕事である署長のポジションに飽きたらず、自ら事件捜査の渦中に飛び込んでいく様子が描かれます。まあ、現実にはちょっとあり得ない人事、そしてあり得ない仕事ぶりではありますが、竜崎の活躍には痛快さがあり、気が重くなるような展開の前作に比べれば、ずっと読みやすい話になっています。

ただ本書は、『このミス』で第4位、『ミステリが読みたい』で第6位、「週刊文春」で第9位という高い評価がされているんですが、ハードカヴァーに1,500円払って、今すぐ読まなきゃ!と言うような作品かというと、私にはそうは思えません。ミステリとしてみたときの濃度は前作より上がっているんですが、それでも事件の展開はありふれていて、結末も容易に見えてしまうていのものだからです。肩の凝らない娯楽小説としては確かに優れていると思いますし、警察活動の描写もリアルで、グイグイ引っ張っていく迫力がありますが、ミステリ性を感じる作品ではありません。もちろん、そこが良いんだ、という方もいらっしゃるでしょうけれど。

物語は、前作を構成するエピソードの一つだった息子の不祥事により、警察庁長官官房総務課長→大森署署長という降格人事を喰らった主人公・竜崎伸也が、署長職に着任した直後の、家庭の情景から始まります。妻・冴子の顔色が悪いことを娘に指摘されるまで気付かなかった竜崎は、そのことを気にしながらも、妻に促されて出勤します。署長の仕事は、山ほどある書類にハンコを押し続けること。現場の業務はベテランの副署長である貝沼に任せておけば良いのですが、竜崎はそんな署長の立場に疑問を感じています。

本来、お飾りとしてただ座っていれば良いだけの「防犯対策懇談会」に出席しても、教師やPTA役員に対して独自の社会観や教育論を熱弁するなど、いわば型破りな行動で変人扱いをされる竜崎ですが、本人としてはいたって合理的に行動しており、周囲の思惑や慣例といったものに縛られないでいるだけ。でも、元キャリア官僚という、現場としてはやっかいな人間を放り込まれた形である大森署の面々は、いろんな場面で当惑させられているのでした。

その日、隣接する高輪署管内で強盗事件が発生し、犯人たちは車で逃走したとの報が入って、竜崎のいる大森署でも緊急配備が行われます。検問の手配は、部下たちがすでに行っていましたが、竜崎は交通課長が見落としていた逃走方向を指摘し、自ら指示を与えます。その最中、小料理屋でケンカ騒ぎが起こっているという知らせがありましたが、強盗への緊急配備のほうが優先され、配備が解けてから確認に行く、ということで見過ごされてしまいます。

間もなく、3人いた逃走犯のうち2人の身柄を確保したという連絡が入りますが、彼らはまんまと大森署の配備をくぐり抜けていたことがわかりました。竜崎が指示していた方向への手配が間に合わなかったためで、結果として方面本部のメンツをつぶしたことになり、大きなペナルティを覚悟しなければならない、と部下たちは青くなりますが、竜崎はバカバカしいと言って取り合いません。しかしそのあと、すぐに方面本部の管理官が怒鳴り込んできたため、竜崎は警察の同期であり、小学校からの同級生でもある刑事部長の伊丹の威光を借りて追い払います。

が、そうした騒動のあと、小料理屋のケンカの件が気になっていた竜崎は、部下を現場に行かせ、その報告から何か異変が起こっているのではないかと感じます。定休日でもないのに、店が開く様子がなかったからです。やがて、例の強盗事件の残る1人の実行犯が、店内の人間を人質にして立てこもっているのではないかという疑いが強まり、本庁から伊丹も部下を引き連れて出動、特殊班も出てくる大事件へと発展します。伊丹を本部に残し、自ら現場の責任者をつとめる竜崎。しかしそのさなか、冴子が血を吐いて倒れたという娘からの連絡が携帯にあり、竜崎は動揺します。そして事件のほうも、この時の彼の判断が、重大な問題となってしまうのでした……。

本書について「驚愕の結末」なんて大げさな言葉を使っている方もいますが、意外性ということで言えば2時間ドラマ程度のものであり、それを期待して読むべき作品ではありません。そういえば、前作『隠蔽捜査』はテレビ朝日の土曜ワイド劇場でドラマ化もされています。主人公・竜崎は陣内孝則、伊丹は柳葉敏郎、竜崎の妻・冴子は原田美枝子というキャスティングでした。伊丹はともかく、竜崎は原理原則を重んじ、自分が正しいと信じることを、常に実行しようとするような堅物ですから、ミスキャストだった印象が強いドラマでした。

物語に勢いがあるだけでなく、警察内部のさまざまな事情や人間関係といったものが活写されていく展開は非常に面白く、警察に関する作者の該博な知識が盛り込まれているために、一般的な刑事ドラマが持っているような軽薄さは免れています。ピンチの矢面に立たされて責任を追及される竜崎は、同時に妻の病気という家庭内の問題にもさいなまれることにもなり、彼の心理描写には確かな読み応えがあります。しかし全体に、何か軽すぎる、という印象もぬぐえません。唐突に、「風の谷のナウシカ」と思われるアニメの話が持ち出されるシーンがあるんですが、こういうのも、何か若い読者層に媚びているような感じがしてなりませんでした。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

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