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zoom RSS 『ミステリ・リーグ傑作選』 上巻 を読んで。

<<   作成日時 : 2007/12/25 23:57   >>

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エラリイ・クイーンが若いころに創刊、4号で挫折してしまったミステリ専門誌の内容を上下巻にまとめたもの。完全復刻にして欲しかったですね。

いまでは考えられないスタイルですが、このたった4号しか発行されなかった雑誌の中に、長篇が5つも掲載されています。というのは、毎号1本ずつ長篇が一挙掲載され、それに加えて3回に分載された長篇が別に1本あるからです。5長篇のうち、創刊号を飾ったのが、当時バーナビイ・ロスを名乗っていたクイーン本人による『レーン最後の事件』(創元推理文庫ほか)で、これはいわば目玉作品だったんでしょうね。

『ミステリ・リーグ傑作選』(論創社)の上巻には1号〜3号までの内容がまとめられていますが、長篇は収録されていません。訳本が簡単に手に入る『レーン最後の事件』を別にすると、残り4つの長篇はこれまで全くの未訳でしたから、実は期待していたのですが、今回翻訳されたのは下巻に収録されたブライアン・フリンの『角のあるライオン』のみ。たった4号ぶんの内容なのに、そして論創海外ミステリとしては厚めの本になっているのに、上下巻で傑作選という形しか取れなかったなんて、どれだけ充実した雑誌だったんだろう、という感じです。

さて、上巻には何が収録されているのかというと、1号〜3号までの中から短篇が1本ずつ。そして、3号からショートショートが1本。『フーディーニの秘密』というエッセイの第1回。クイーン自身の筆によると思われる推理クイズ集「パズル・デパートメント」の第1回。そして、「姿見を通して」と「クイーン好み」というエッセイが全3回分。このほか、3号にのみ掲載された「読者コーナー」、掲載作家のプロフィール紹介記事「作家よ!作家よ!」といったところです。

目次を見た感じでは、「えー、この厚みでたったこれだけかよ」という印象ですが、実際にはクイーンのエッセイ類がかなりのヴォリュームを占め、その内容も非常に面白くて、クイーンのファンであれば買って損はない内容になっています。クイーン=ロスであることを公表する前であるだけに、作家紹介コーナーでロスのことをベタボメしていたり(w)、読者コーナーにいろんな有名人の名前が並んでいたりと、ヒストリカルな意味合いでも興味深い点がいろいろあります。

『フーディーニの秘密』は、偉大なるマジシャンとして有名だったフーディーニが亡くなった1926年に、わずかな部数しか発行されなかったマジックのネタバラし本からの再録ものなんですが、フーディーニのごく身近にいた人物が書いたものらしく、トリックがバッチリ明かされています。その中には、かのクレイトン・ロースンが某作品で使っているトリックもあって、しかもロースンがこの「ミステリ・リーグ」の定期購読者であったことも事実のようなので、思わずニヤリとしてしまいます。いずれにしても、エドガー・アラン・ポオの『メルツェルの将棋指し』を読むような謎解きの快感が、ここにあります。

「ミステリ・リーグ」が創刊され廃刊になったのは1933年のこと。クイーンの2人はまだ27歳で、作品としては『シャム双子の謎』(創元推理文庫ほか)を発表する前ということになります。作家としてのキャリアはたった4年。しかし、『Xの悲劇』や『Yの悲劇』、『オランダ靴の謎』、『エジプト十字架の謎』といった名作群を発表したあとだけに、エッセイ類にはかなりの若さ、というか青臭さが感じられるところもあり、それがまた面白い点でもあります。

実際、どんなことが書かれているかについては本書を読んでいただきたいと思いますが、個人的に一番面白かったのは「高等批評」と題された一文でした。その冒頭を少し引用してみます。「私はずっと、探偵小説に真の科学的批評をもたらす方式の必要性を感じてきました。特殊な才能を持っていなくとも、本に対する“普遍性があり優れた批評”を行うことができるならば、探偵小説の批評には謎など存在しないということになるわけです。そもそも探偵小説というものは、程度に差こそあれ、公式に沿って書かれています。ということは、もしみなさんがこの公式を構成する要素を理解したならば、その要素に対して価値があるかないかを判断するのは容易なことになるはずです」。

叙述トリックやメタミステリなどという概念が存在しなかった、あるいは存在していても、それと意識されていなかった時代の考察ですが、現在でもクイーンの言う「ミステリの公式を構成する要素」を基準にして批評できる作品は数多く書かれているわけで、まがりなりにもミステリ本を俎上にしながら書いているブログの筆者としては、クイーンの列挙した10の要素を、あらためて各作品に当てはめてみたい気もします。彼らが言うほど簡単なことではなさそうですけれど(w)。

その10要素とは以下の通り。「プロット」「サスペンス」「解決の意外性」「解決の分析」「文体」「人物描写」「舞台設定」「殺人方法」「手がかり」「読者へのフェアプレイ」です。いわゆる「トリック」という項目が含まれていないのがちょっと意外ですが、これは「プロット」や「殺人方法」、「手がかり」などに分散していると考えるべきなんでしょう。ロジックの作家クイーンらしい選び方になっているとも言えます。クイーンが各項目を詳しく解説しているのを読むと、まるで「ノックスの十戒」とか「ヴァン・ダインの二十則」のクイーン版とみなせるような書き方になっています。似たようなことをやった人は他にもいますが、すべてはここから始まったわけです。

しかし、実際にこの10要素を当てはめて批評したクイーンの採点表には、ちょっと納得しがたいものもあります。個々の作品に対する点には、どうしても主観や好みが入りますから、それは仕方のないことでしょう。ですが、たとえばポオの『モルグ街の殺人』について、86点という高得点を付けながら、「もし本作が現代に書かれていたらもっと低い点になる」ともしていて、結局、作品の歴史的な価値とか同時代性といったものから、この批評基準も逃れられていない、ということを露呈してもいます。このへんは、私たち新しい読者が考えていくべき問題なのかもしれません。

さて、収録作品についても少し触れておきます。4号までの間に3つの短篇が掲載されているにもかかわらず、素性の良くわからない作家ジョン・マーヴェルは、もしかすると有名作家の覆面なのかもしれません。この傑作選には『偉大なるバーリンゲーム氏』という短篇が収録されています。詐欺師の上前をはねる詐欺師、という構図のプロットは、去年ドラマ化された漫画『クロサギ』の、はるかなる祖先という感じ。なかなかスマートな好短篇です。

今年、原書房から『議会に死体』が翻訳出版されたイギリス作家、ヘンリー・ウェイドの短篇『完全なる償い』は、ひねりの効いた本格的な倒叙ミステリ。警察官が、自分の娘を弄んだ男を殺す話です。プロットやトリックはシンプルですが、名手の作品だけあって、それらが最大限の効果を発揮しています。オチも「そうくるか!」的な意外性がありました。

当時新人だったトマス・ウォルシュの『ガネットの銃』は、ちょっとハードボイルド風なタッチの刑事もの。でも中身はフーダニットの本格作品です。現代の読者の目で見ると、やや意外性に欠ける内容ですが、スピーディな展開で読ませてくれます。ジェラルド・アズウェルの『蠅』はショートショート。これは原文で読んだほうが面白そうな感じの作品ですが、シニカルなユーモアが散りばめられていて、時代の空気も良く伝わってきます。

編者の飯城勇三氏によると、1号あたりで単行本2冊ぶんの量があるため、完全復刻は断念せざるを得なかったとのこと。読者からの支持があれば増巻もあり得る、とも書かれています。残り3つの未訳長篇のうち、ギャヴィン・ホルトの『太鼓は夜響く』と、B・G・クインの『黒門荘の謎』(邦題は仮題)は面白そうなので、ぜひ実現して欲しいと思います。特に『黒門荘の謎』は密室もののようですから、マニアとしては食指が動くところです。

なお、下巻の内容に関しては、コチラに書いていますので、興味のある方はどうぞ。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
×漫画『シロサギ』
○漫画『クロサギ』
です。念のため。
通りすがり
2008/03/19 02:02
通りすがりさん、ご指摘ありがとうございます。
訂正いたしました。
のちんかん
2008/03/24 13:17

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