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zoom RSS 『密室殺人ゲーム王手飛車取り』 を読んで。

<<   作成日時 : 2007/12/30 23:58   >>

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「王手飛車取り」というより「ヘボ将棋、王より飛車を可愛がり」という感じの小説。基本アイデアは悪くないはずなのに、つまらないんです。

物語の設定は以下のようなものです。お互いをネットのハンドルネームでしか知らない〈頭狂人〉、〈044APD〉、〈aXe〉、〈ザンギャ君〉、〈伴道全教授〉という5人の仲間がいます。彼らは1人ずつ順番に、殺人事件に関する問題を出して、あとの4人がそれを解決するというゲームを行っています。しかし、これが普通と違うのは、彼ら全員が実際に殺人者であり、それぞれが実行した殺人の謎解きを問題にしているということです。個々の殺人の犯人は最初から出題者だとわかっているわけですから、原則的にフーダニットはなく、解くべき謎は密室であったり、アリバイ崩しであったりということになります。

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』(講談社ノベルス)とは、少々あざといタイトルです。誰もがトリック小説を期待してしまいますが、この作品で使われているトリックは小ネタが中心。ゲームというだけあって、推理クイズ本に出てくるような種類のものがほとんどです。独創的に感じられるものもありますが、それらとて長篇を支えられるような力のあるトリックではありません。また、密室の謎はいくつか出てくるものの、古典作品の流用だったり、そもそも密室と呼べないものであったりで、看板に偽りありな印象を受けます。

作者自身もそのことは意識しているようで、謎は次々に提示されるものの、はしからすぐに解かれていき、作中人物に「しょーもなー」などと言わせることによって、自分でツッコミを入れています。連作短篇形式にするという選択もあったでしょうが、それだと個々のトリックが弱すぎ、短篇と短篇の間のバランスも悪いものになっただろうと思われます。ですから、この形式は仕方ないのかもしれませんが、中心を貫いているプロットの展開に意外性が薄いので、先がどんどん見えてしまうのが最大の不満。もっとも、終わらせ方はやや意外でした。コピーにある「茫然自失のラスト」はかなり大げさですけども。

この本の表紙見返しには、作者・歌野晶午の言葉として「最初のアイデアは1988年ごろ芽生えました」とあります。彼の長篇第1作『長い家の殺人』(講談社文庫)が発表されたのがまさにその年ですから、デビュー時期からこんなことを考えていたということになります。イジワルな見方をすれば、デビューから20年近くの間に、小ネタトリックのストックが溜まったからこそ、やっと昔のアイデアを活かした物語に着手できたとも考えられます。

登場人物のセリフにある「殺したい人間がいるから殺したのではなく、使いたいトリックがあるから殺してみた」というのが、この作品の基本コンセプトになっているんですが、これを作者の立場に置きかえてみれば、「トリックを思いついたから書いてみた」ということになるでしょう。でも、普通は「犯人はなぜ現場を密室にする必要があったのか」というような部分で苦労することになるため、単にトリックを思いついただけでは作品を仕上げることはできません。ところがこの作品では、小説上の設定を工夫することによって、トリックのためのトリックを使えるようにしたわけです。この発想はなかなかのものだと思います。

しかし前述したように、小粒なトリックばかりなので、イマイチな感じなのです。あくまでも個人的な印象ですが、歌野晶午という作家は、他の新本格系作家たちと比べて、物理的なトリックの案出に苦労しているような気がします。そのかわりに、個々のトリックの扱いはとてもていねいです。私が「ヘボ将棋、王より飛車を可愛がり」だと思ったのはそういうところで、小ネタにそこまでこだわるぐらいなら、本筋のほうをもっと工夫するべきだと感じたからなのです。

というのも、ゲームのメンバーである5人は、お互いの本名や素性を知らないだけでなく、マスクやコスプレで顔を隠しており、声もヴォイスチェンジャーで変えていたりしているので、年齢も性別も不明です。これは結局、「顔のない死体」パターンと同じことで、読者としてはそれぞれの人物の正体が、表面に見えているようなキャラクターではないのだろうと考えてしまいます。ならば、作者はそれを覚悟して書かなければならないはずなんですが、そのわりにはヒネリが小さいんです。

物語は、〈aXe〉の出題によるミッシング・リンクの謎を解こうとするところから始まります。〈aXe〉は、ある法則を決めて最初の被害者を殺し、次に殺すのはどういう人物なのかを当てろ、という問題を出しているわけです。殺人と殺人の間にはある程度のインターヴァルが置かれ、残り4人はその法則を見つけようとします。ここで、物語は〈頭狂人〉の視点になり、被害者の通っていた大学で聞き込みをしたりするシーンが描かれます。しかし結局、期日までに誰も法則を見つけることができず、第2、第3の殺人が実行されます。

最終的に〈aXe〉は未遂も含めて10件もの殺人を実行します。そこでようやく謎が解け、次は〈伴道全教授〉の番。殺人を実行するヒマがないため、アリバイ崩しのシミュレーション問題です。以下、〈ザンギャ君〉による密室殺人と死体移動の謎、〈伴道全教授〉による新たなアリバイの謎、〈044APD〉による三重密室の謎というふうに出題が続きます。そんな中、順番の回ってきた〈頭狂人〉は、「究極の犯人当て問題」を出題しようと考えるのでした……。

意外なことに、このような設定でありながら、リアリティぶっとびな印象は受けません。まあ、「中年男が女の子のパンティを買い込み、無理矢理履いて汚したそれを、近所の家の庭に投げ込んで喜んでいた。しかも男は殺人犯で、億単位の金も横領していた」なんて、もし小説に書いたら「ありえねー」のひとことで片づけられそうな事件が、現実に起きてしまう昨今ですから、もう何でもアリなんだという意識が、私たちの側に生まれてしまっているのかもしれませんね。ただ、冒頭のミッシング・リンクであんなに引っ張るのはいただけません。私は3つめの殺人のところで法則性に気づいてしまいました。これでは、メンバーがみんなバカみたいです。

クリフハンガー式の結末のあと、最終ページにはベタな感じに「To Be Continued...?」とあり、続編が書かれるかのようなニュアンスになってはいましたが、正直なところ「ホンマかいな?」と思っていました。しかし、雑誌「メフィスト」に『密室殺人ゲーム2.0』というのが掲載され、どうやらシリーズになってしまったようです。なかなか度胸のあることをやりますねえ。でも、どうせこういう設定なんだから、いっそのことゲームソフトにしてしまう、という手もあったんじゃないでしょうか。「かまいたちの夜」みたいな前例もありますし、この設定ならもっとゲーム性の高いシステムにすることが可能だったように思うんですが……。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

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歌野晶午「密室殺人ゲーム王手飛車取り」を読んだ
インターネット上で知り合ったミステリマニアの5人が、各自で実際に殺人を犯し、その謎を解くという連作集。 ...続きを見る
キャッチヘルブルース
2009/04/01 23:04

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