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zoom RSS 『わたしが殺された理由』 を読んで。

<<   作成日時 : 2008/01/20 23:51   >>

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ヘンテコな設定で、どんどん予測不能な方向に進んでいくミステリ。こんな記事はほっといて、なるべく予備知識なしに読んで欲しい本ですね。

作者はアン・アーギュラという女性名になっていますが、その正体はダリル・ポニクサン(Darryl Ponicsan)というベテラン作家。ただし、海外のデータベースでも生まれ年は公表されていません。デビュー作の発表が1971年で、それ以前に海兵隊員やソーシャルワーカー、高校教師などを経験しているらしいですから、70歳前後というところじゃないでしょうか。日本では、70年代に角川書店から2冊の小説が翻訳紹介されています。日本の文化などに興味があるのか、デビュー作には日蓮正宗の集会のシーンがありましたし、今回の作品ではヒロインが合気道の師範と「忘れられない夜を過ごした」過去を回想するところがあったりします。

というわけで、アン・アーギュラ名義ではこの『わたしが殺された理由』(ハヤカワ・ミステリ文庫)が第1作なんですけども、作家としてのデビューは40年近く前、ということになります。翻訳された2冊、『最後の任務』と『シンデレラ・リバティー』(いずれも絶版)はどちらも映画化されており、国内ではそれぞれ『さらば冬のかもめ』、『シンデレラ・リバティー かぎりなき愛』というタイトルで公開されています。どうやら、それ以後は作家として新作を発表するのではなく、脚本家への転身を図ったようで、10本ほどの映画に携わっています。

『わたしが殺された理由』は2005年の発表ですから、ポニクサンにとっては30年ぶりの小説ということになります。経歴を知ってみると、確かにこれは映画化を狙ったようなプロットと言えるかもしれません。展開は非常にスピーディで、ときに説明不足を感じるところもあります。本格ミステリとして読むことはできない構造ですし、警官コンビが主人公なのに警察小説とも言えない。では何に似ているかと言えば、ハーレクインなどのロマンス小説が一番近いんじゃないかと思います。

ロマンス小説にはパラノーマルといわれるジャンルがあります。超自然的な存在、つまりヴァンパイアとか魔女なんかがロマンスに絡んでくるヤツ。テレビドラマで言えば、『バッフィー 恋する十字架』とか『チャームド 魔女三姉妹』あたりを想像していただければわかりやすいかも。『わたしが殺された理由』も、大ざっぱに言えばその系統に入りそうな感じなのです。生まれ変わり、輪廻転生みたいなものがテーマとして扱われているので。

ハッキリ言って、私はいわゆるスピリチュアルなお話には興味ないですし、テレビ番組などでその種の発言をする人々には、やや嫌悪感を持ってさえいます。しかし、全くのフィクションとして書かれた小説の中に、こういう要素が含まれていることについては、それが面白さを高める要素として機能しているのなら、何の問題もないとも思っています。この小説の場合、ミステリとしての枠に「生まれ変わり」が組み込まれ、プロットを成立させるために不可欠な要素にもなっているので、抵抗なく楽しむことができました。

男女の警官コンビが主人公ですが、視点は女性のほうに固定されており、全編が一人称で語られます。男性はスウェーデン系の両親を持った、長身でハンサムな33歳の独身。語り手の女性のほうは49歳で既婚者。夫はドラッグストアに勤める薬剤師で、大学生の息子がいます。彼女はすでに更年期に突入しており、卵巣機能の低下によるホットフラッシュにしばしば襲われています。彼女のそれはかなり深刻で、物語中でも突然、ビックリするような症状を起こしますし、すでにセックスには何の興味も持てなくなっています。

クインという名の彼女は、どうやら男性から見ると非常に魅力的なルックスをしているらしいんですが、上記のような理由で、すでに「女を捨てた」ような雰囲気を漂わせています。しかし、夫が職場の同僚である若い女と不倫しているのではないか、という考えに取りつかれてもいて、そのせいで鬱々とした気分になることもあります。非常に口が悪いというか毒舌家であり、言うことは常にストレート。おそらくはそれが理由で、上司である警部補からは嫌われています。

男のほうはオッドという名前。彼は無口で「いいヤツ」であり、クインとは何かにつけてコンビで任務に就くことが多く、仕事上では気の合うパートナーです。男女の警官コンビが主人公のロマンス小説があるのかどうか知りませんが(たぶんあるでしょうけど)、この2人の設定はまさにロマンス小説的ですし、2人のやりとりを描いた部分も、私にはそれっぽく感じられました。プロットで読ませる種類の小説ですから、最初に書いたように、物語のあらすじは知らないほうが楽しめると思いますので、2人の関係がどうなるのかには触れないでおきます。巻末の訳者あとがきも読まないほうが良いでしょう。事件のほうの結末は超自然的なものではなく、スッキリとした終わり方をしています。

これではレヴューの役を果たしてない、と言われそうなので、少しだけ付け加えておくと、この小説はいわゆる「幽霊探偵もの」の変種とみることができると思います。幽霊探偵ものというと、ガイ・カリンフォードの『死後』と、J・B・オサリヴァンの『憑かれた死』(ともにハヤカワ・ポケット・ミステリ。絶版)の2作が有名です。『死後』が本格ミステリであるのに対し、『憑かれた死』はハードボイルドなんですが、どちらも殺された本人が幽霊となって、自分を殺した犯人を突きとめるという構造は同じ。日本でも、斎藤栄とか有栖川有栖なんかが書いています。

『わたしが殺された理由』の場合、タイプとしては『憑かれた死』に近いハードボイルド系のタッチなんですが、違っているのは、殺された少女が幽霊となって探偵するというのではなく、彼女が男の警官として生まれ変わっていて、しかも彼女の人格が表面に出てくるわけではない、というところ。オッドは、33年前に少女が殺された場所に到着するころからデジャヴのような感覚にとらわれるようになり、だんだんと自分が少女の生まれ変わりであることに気付いていく、という展開なのです。

作者の経歴を知らないで読んでいれば、アン・アーギュラが実は男性である、なんてことに私は気付かなかったでしょう。更年期の女性心理なんて、男の私には理解の範疇を超えた分野なので、それについては評価すること自体不可能なんですけども。ミステリとして期待しすぎると肩すかしを食らうかもしれませんが、物語として面白いのは確かで、ヒロインのクインは非常に魅力的です。第2作がすでに執筆されており、そちらではクインが警官を辞めていて、私立探偵を開業しているとのこと。どういうストーリーになっているのか、ちょっと気になりますね。

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