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zoom RSS 『こちら殺人課! レオポルド警部の事件簿』 を読んで。

<<   作成日時 : 2008/01/23 23:55   >>

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《絶版・品切れミステリコレクション》…その第20回として、エドワード・D・ホックの『こちら殺人課! レオポルド警部の事件簿』を取り上げます。

きょうは、逝けるホックへのささやかな追悼の意を込めて、日本オリジナル編集の短篇集であるこの本を書庫の奥から引っ張り出し、再読することにしました。今の読者には意外かもしれませんが、『こちら殺人課!』は講談社文庫として出た本です。訳者もおなじみの木村二郎氏ではなく、風見潤氏が担当。奥付けを見ると、昭和56年4月の発行になっています。ホックが作家デビューしてから3年目である1957年に、私立探偵アル・ダーランの脇役として初登場させたジュールズ・レオポルド警部の活躍を描く作品集です。

ホックはほとんど短篇だけで食っている特異な存在でした。1000篇もの数にのぼる短篇に対し、長篇は6つしかありません。しかも、その5つまでは、中篇に毛が生えた程度の分量です。このうち、ミスターX名義で発表された『狐火殺人事件』(ミステリマガジン1974年9月号から6回連載)は、それぞれに完結している6つの連作を通して、別のトリッキーな仕掛けがあぶり出されてくるという趣向の作品。第5話には「読者への挑戦」が含まれていますが、見ようによっては失踪人探しのプロであるデイヴィッド・パイパーをシリーズキャラクターとする短篇集でもあります。

残る1篇はエラリイ・クイーン名義で発表された『青の殺人』(原書房)。クイーンの片割れ、マンフレッド・B・リーが亡くなる直前に着手され、フレデリック・ダネイの校訂を経て出版されたことから、クイーンの2人が最後に関わった作品としても知られている長篇フーダニットです。ホックは常々、クイーンの『チャイナ橙の謎』(創元推理文庫ほか)を読んだことによってミステリ作家を志すようになったことを公言していました。そのため、ホックはクイーンを師と仰ぐことに誇りを持っていたようで、この代作もホック自身が持ち込んだ企画とのこと。

『青の殺人』はホックらしさが随所に見られる作品ですが、やはり彼が長篇作家でない、ということも感じ取れる出来映えです。しかし、同じキャラクターが登場する短篇をたくさん書くことによって、長篇とは違ったやり方の“年代記”を作り上げていったサム・ホーソーン先生のシリーズを見てもわかるように、ホックの作品世界はミクロコスモス的な広がりを感じさせてもくれるんです。キャラクター同士のクロスオーヴァー作品も、しばしば書かれていますし。

レオポルド警部シリーズは50年にわたって書き続けられ、ホックの作家生活のほぼ全体をカヴァーする長寿シリーズでもあります。トータルの短篇数では100を超えており、最多登場回数を誇るキャラクターなのです。それだけ、ホックにとって愛着があったんでしょうね。サム・ホーソーン博士ものほどの連続性はありませんが、警部の離婚、再婚、引退、復帰、再度の引退という流れに沿って書かれており、彼の人生の区切りが直接事件とも結びついて描かれます。また、最初は部長刑事として登場する部下のフレッチャーはやがて警部に、巡査として登場する女性警官のコニー・トレントは警部補にまで昇進します。レオポルドは背景に退き、彼らの相談相手として登場するわけです。最後の登場作品は、おそらく2006年発表の“Leopold in the Lab”だと思われます。

収録作品・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『サーカス』
前日、家族と一緒にサーカス見物をした少年が、もう一度観たいと言って、雨の降る中ひとりで出かけたあと、近くの空き地で首を絞められた無惨な死体となって発見されます。レオポルドにタメ口で話す傲慢な部下のスレイター刑事は、サーカスの関係者に聞き込みをした結果、覗きの常習犯の男を容疑者と決めつけ、暴力的な取り調べで無理に自白を引き出しますが……。レオポルド警部の3つ目の登場作品で、初めて主役を張った短篇でもあります。後年のホックであれば、きっと不可能犯罪ものに仕立てていたであろうシチュエーションが扱われています。

『港の死』
港から少し離れた場所で停泊中のクルーザーに、ひとりで乗っていた裕福な医師が、甲板で射殺される事件が発生。逃げていく船影を見たものがいないため、当初は自殺の可能性が高いと思われましたが、翌週、同じ港に停泊中のトロール船で貧乏な漁師が射殺され、2つの事件に使われた銃が同じであることが判明。レオポルドは犯人がスキンダイバーであるとにらみますが……。シリーズ第7作。アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』に言及するシーンもある、ミッシング・リンクを変形させたパターンの作品です。小味ですが、綺麗にまとまっています。

『フリーチ事件』
レオポルドの古いなじみである、イカサマ賭博師のハリイが町に舞い戻ってきたため、地方検事補のコンプトンはレオポルドに、ハリイを説得して町から離れさせるよう指示します。若い愛人と組んで、インチキなゲームで稼いでいたハリイは、レオポルドにトリックを見破られて町を出ることを決心しますが、その前に大金をかっさらっていこうと、フリーチという男が経営するもぐりのカジノで強盗を実行します。しかし、成り行きでフリーチを撃ってしまい……。シリーズ第9作。倒叙もののようなスタイルで始まり、意外な真相に着地する作品。少し枚数不足な感じで、ゴテゴテしています。

『錆びた薔薇』
3年前、世界的に有名な作家が射殺された未解決事件で、レオポルドはその娘ニーナと知り合い、以来2人は親友以上恋人未満のような交際を続けていました。ところが今になって、ニーナのもとに、当時の事件関係者から「あなたの父親を殺した犯人を知っています」という手紙が届き、現金と引き替えに証拠を渡すと書かれていました。レオポルドはニーナがその男と会うことに反対しますが……。第15作。名作『長方形の部屋』と同時期に書かれた作品だけあって、こちらもなかなか見事な出来映えです。特に動機の設定が非常に独創的で、意外性も充分あります。

『ヴェルマが消えた』
町の有力者の息子が、妹のクラスメイトである15歳の少女ヴェルマと、夕方の遊園地に遊びに来た際、ひとりで観覧車に乗った彼女がそのまま消えてしまう、という事件が起きます。観覧車は客も少なく、一周して降りてくるのを2人の人間が見守っていたのに、ヴェルマがどうやっていなくなったのかは謎でした。捜査は難航し、やがて、レオポルドが予感したとおりに、ヴェルマは死体となって発見されたのですが……。第19作。お得意の人間消失ものです。いったん謎が解けたとみせておいて、もう一段の真相が明らかになっていく展開は、なかなか見事です。

『パレードの殺人』
ポンダ・デパートの経営者であるポンダ氏のもとに、「独立記念日のパレードに出るならお前を射殺する」という内容の脅迫状が届きます。相談を受けたレオポルドは、ライヴァルであるクォータリィに対抗して馬に乗ると言い張るポンダをに対し、オープンカーで参加するようにと説得します。しかしパレードの当日、クォータリィが馬上で狙撃されて死亡。犯人は閉店していたポンダ・デパートの店内から撃ったことが判明しますが、凶器がみつからず……。第20作。トリックは面白いんですが、日米のデパートに存在する相違点が謎の一端を担っているため、少し評価しにくい作品です。

『幽霊殺人』
夜、清掃中のビルの15階で、掃除婦のマーサが射殺されるという事件が発生。5人いた目撃者たちは、全員がその場面をハッキリと見ており、犯人がマーサの別居中の夫カートであると証言します。その翌日、カートは高速道路上で事故を起こして死んでいたことが判明。妻を射殺して逃走中の事故だと思われましたが、発見した白バイ警官の報告を調べたところ、事故発生時刻は射殺事件の30分以上も前だったのでした……。第41作。手の込んだプロットながら、読んでいる最中はそれを感じさせない、手練の技が光る作品。ミスディレクションも非常に冴えています。

『不可能犯罪』
11月の夕暮れ、帰宅するレオポルドを乗せたフレッチャーの車は渋滞に巻き込まれていました。何か異変が起きていることを察知した2人が、停まってしまった数台前の車に行ってみると、その運転席に座った男が、ロープで首を絞められて死んでいました。しかし、そばにいた車の運転者は誰も逃げるところを見ておらず、しかも検死の結果、被害者は発見の30分も前に死んでいたことがわかったのでした……。第49作。この時期のホックに多い、飛びきりの不可能興味が横溢する作品です。短篇でありながら、過去の事件とリンクさせる展開も絶妙です。
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レオポルド警部シリーズは非常にオーソドックスな本格短篇ばかりなので、逆にホックらしさが表れていない、と見る向きもあります。しかし、こうしてまとめて読んでみると、ホック自身のスキルが進歩していく様子がハッキリ伝わってきます。基本的にあとの作品ほど、安心して読める出来映えになっているんです。このへんが、アイデアの枯渇などによって次第に質の落ちていく、凡百の短篇作家と異なるところです。また、今回再読してみて、以前には気付いてなかった点があります。それは、同じ本格作品でもサム先生ものなどと違って、感傷的な心理描写が多い、ということ。ややウェットな手触りがするんです。

でも、レオポルド本人の個性はあまり強くないですから、日本での人気がイマイチ盛り上がらなかったのは仕方ない気もします。サム先生や怪盗ニックなどと比べると翻訳率は高いとは言えません。おそらく40篇ぐらいのものでしょう。それだけに、この短篇集の存在は貴重なんですが、絶版になって久しい、というのが残念です。あらためてどこかの出版社がまとめてくれることを期待しながら、ホックが創造した数多くのキャラクターたちの代表であるレオポルド警部へも、追悼の気持ちを捧げたいと思います。

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