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zoom RSS 『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』 を読んで。

<<   作成日時 : 2008/02/02 23:58   >>

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現代の作家が、黄金期の本格ミステリへ捧げたオマージュ、というスタイルの本。その中身は、かなり出来の良い密室ミステリになっています。

裏表紙のコピーには「ミステリの枠を打ち破る超ミステリ」と書かれていて、なんとなくメタミステリ系の香りを発散させています。しかし、予備知識なしにこれを読んだとしたら、単に普通の本格ミステリだとしか思わない読者もかなり出てきそうです。作者はこれを、オマージュでありつつパロディ、あるいはアガサ・クリスティのパスティーシュという意図で書いたようで、年季の入ったファンなら、ニヤニヤできる箇所がたくさんあると思います。2006年に発表された作品ですが、物語の舞台は1935年。ディクスン・カーの『三つの棺』(ハヤカワ・ミステリ文庫)が刊行された年に設定されています。

作者ギルバート・アデアはイギリスの人で、文芸評論家としても一家をなしています。1944年生まれですから、近い世代のミステリ作家というとマイクル・Z・リューイン(1942年生まれ)とかサラ・パレツキー(1947年生まれ)あたり。ほとんど本格ものの書き手がいない世代ですね。アデア自身もミステリ作家ではありませんが、早川書房から出ている『作者の死』には“究極のフーダニット”というコピーが付いていましたし、東京創元社の「海外文学セレクション」の一冊として刊行された『閉じた本』も、サプライズが仕掛けられたサスペンス小説として読める作品でしたから、もともとこのジャンルに強い関心のあった人なんでしょう。

で、この『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)は、タイトルからしてクリスティの『アクロイド殺し』(クリスティー文庫ほか)を、そこはかとなく(?)もじっています。作者は執筆前の2年間に、クリスティの長篇全66作をすべて通読あるいは再読し、この作品はいわば67作目のクリスティというようなつもりで書いたのだとのこと。といっても、特定の作品をパロディにしたわけではなく、ポワロのような名探偵も出てきません。その代わり、自らをクリスティのライヴァルとみなし、G・K・チェスタトンを友人だという女性ミステリ作家が登場し、“ミステリの女王”ならぬ“ミステリの公爵未亡人”というキャッチフレーズを使わせています。

特定の作品のパロディではないと書きましたが、強いて言えば『アクロイド殺し』や『オリエント急行の殺人』あたりが念頭にあると思われるフシはあって、これらを読んでいるほうが楽しめるのも確かでしょう。プロットはかなり独特で、起きる事件が類型的に見えるわりには、後半でちょっとしたヒネリが加えられ、オリジナリティを高めています。これがもし、日本で新本格の作家が登場する前に書かれたものだったなら、パロディと受け取る人も多かっただろうという気がしますが、バカミスとそうでないものの境界線があいまいになっている今となっては、パロディ味が薄れてしまっているとも思います。

物語がスタートした時点で、事件はすでに起きています。舞台はイギリス・ダートムアの小さな村。クリスマスの朝、イヴの夜からの吹雪で、ロジャー・フォークス大佐の館に閉じこめられた状態になっている人々のなかで、全員の敵意を一身に集めていたゴシップ紙の記者、レイモンド・ジェントリーが死体で発見されたのです。現場は屋根裏部屋。銃声と悲鳴を聞いて、大佐と、大佐の娘セリーナの恋人であるドナルドが駆けつけてみると、ドアの下から血が染み出していたため、体当たりしてぶち破ってみると、射殺された被害者の死体がドアをふさぐような姿勢で倒れていたのでした。

ドアや窓は内側からしっかり施錠されていましたが、家具もほとんどないがらんとした部屋には、他に人影はなく、凶器のピストルも見つかりませんでした。誰の目にも、密室殺人であることが明らかな状況だったわけです。猛吹雪のせいで電話は不通になっており、最寄りの警察までは30マイル以上あって、しかも、そこへ通じている唯一の道は通れなくなっていたため、執事の提案で村に住んでいる引退したスコットランド・ヤードの元警部、セイウチ髭のトラブショウが呼ばれることになります。

館には、大佐と妻のメアリー、娘のセリーナ、秘書や執事といった使用人たちのほか、ミステリ作家のイヴァドニ・マウント、女優のコーラ・ラザフォード、牧師のワティス夫妻、開業医のロルフ夫妻、セリーナの恋人ドナルドといった人々が、クリスマスの客として招かれていました。そして殺されたレイモンドは、数週間前にロンドンでセリーナと知り合い、招待もされていないのに強引に、しかも予告なく館を訪れた“招かれざる客”であり、彼が登場したことによって人々の和はかき乱されていたのでした。

というのも、レイモンドは根っからの小悪党で、ゴシップをネタにした記事を書くことと、それをネタにしたゆすりをして食っているような人間のクズなのですが、セリーナはその本性を見抜くことができず、ドナルドを差し置いて、ちょっと熱を上げてしまう始末だったのです。しかも、ここに来て早々、ワティス夫妻やロルフ夫妻の、触れられたくない昔のキズを掘り出してあざ笑うような話をしたり、イヴァドニやコーラの秘密を暴露するとほのめかしたりしていました。

元は警察の人間だとはいえ、現在は引退して捜査権もないトラブショウ警部ですが、ここで話されたことは外には漏らさない、という条件のもと、全員を集めて事情聴取を行い、レイモンドが人々の恨みを買っていたことを順に聞き出していきます。しかし、フォークス大佐に対する聴取の順番が回ってくると、大佐はいったん休憩をはさみたいと言いだし、トラブショウの連れてきた老犬トバモリーを連れて散歩に出かけてしまいます。そのことが、第二の事件のきっかけになるとも知らず……。

冒頭で発生する密室殺人のトリックは、この物語の中心テーマではありません。ミスディレクションの巧みさはなかなかのもので、クリスティの優秀な作品にも匹敵するすばらしさです。この作品の狙いは、まさに大がかりなミスディレクションにこそある、といっても良いでしょう。探偵役をつとめるイヴァドニ・マウントに、作者はこう言わせています。「あたしが密室ものを手がけたことがないのを知ってるはずよ。あれはジョン・ディクスン・カーに任せてるの」。彼女はクリスティと同様、フーダニット系の本格ミステリを得意としているようで、女性の素人探偵であるアレクシス・バッドリーというシリーズキャラを持っているのですが、密室の謎は解かせたことがない、ということになっているんです。

とはいえ、ここで扱われている密室トリックは、なかなか興味深いものになっています。バカミス風なのですが、このトリックが明かされたとき、日本のミステリ読者であれば、即座にある古典作品を連想するに違いないからです。つまり、独創的かというとそれほどでもないのですが、いわば「街角で、バッタリ昔の知り合いに出会って、懐かしさを感じる」ような面白さがあります。ひょっとしたら、作者はこの古典ミステリを、英訳で読んでいたのかもしれません。しかし、このトリックがこんなところで出てくるというのが、私の意表を突いてくれました。また、犯人が密室を作った理由には独創性があり、プロットともしっかり結びついています。パロディとして読むこともできるでしょうが、むしろ古典ミステリファンにオススメの、ガチ本格というほうが自然な感じのする作品です。

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