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zoom RSS 『虚空から現れた死』 を読んで。

<<   作成日時 : 2007/08/18 23:50   >>

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国書刊行会から『天井の足跡』が出たとき、これでクレイトン・ロースンの翻訳紹介は終わったな、と思ったミステリファンは多かったでしょう。

ロースンは、日本で言えば泡坂妻夫のごとく、アマチュア奇術師兼ミステリ作家だったことで知られる人で、ディクスン・カーやエラリイ・クイーンとも親交がありました。残した作品の多くが、奇術趣味にあふれた不可能犯罪ものだったこと、そして探偵役が奇術師であることなどから、ロースン自身もプロのマジシャンであったような印象を持ってしまいがちですが、彼の本業はアート・ディレクションや雑誌の編集でした。

アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』を読むと、ひとつひとつのエピソードに付けられた作者のあとがきの中に、ときどきこういう一節が出てきます。「この作品は『EQMM』の美人編集長エリナ・サリヴァンに没にされた」。おそらく、専業のミステリ雑誌編集者の名前がこういう形で取り沙汰されるようになったのは、このサリヴァン編集長あたりからのことで、それだけ彼女は有能だったということを示しているのでしょう。そして、彼女を名編集長に育て上げたのが、他ならぬロースンだったのです。

ロースンが『EQMM』の編集長をつとめていた時代には、デヴィッド・イーリイ、ウィリアム・ブリテン、ジョン・L・ブリーンなど、実にさまざまな作家たちがデビューしています。ローレンス・トリートのアルファベットシリーズや、ジョー・ゴアズのDKAシリーズなども、ロースン編集長のもとで生まれたもの。現在の『EQMM』が、クライム・ノヴェル一辺倒になってしまっているのとは大違いのヴァラエティ豊かな内容で、それはサリヴァン時代まで引き継がれています。

さまざまな雑誌や叢書で編集者をするかたわら、作家活動をしていたということで、ロースンはマジシャンとしてだけでなく、作家としてもアマチュアだった、とみることもできると思います。作品数は少ないですし、特に長篇はやたらとゴテゴテした印象があって、表現力に欠ける気がします。カーとの交友から発想された作品があることでも想像されるように、ロースンには自分の楽しみのために書いていた、という一面があったのかもしれません。

ですから、ロースンの本領は長篇ではなく、中短篇にこそあるのだと言って良いでしょう。彼の最高傑作とみなされている『天外消失』も中篇です。中途半端な分量のせいか、もう30年以上も国内ではリプリントされていませんが……。そろそろ、ミステリマガジンに掲載されたまま単行本化されていない“読者への挑戦”シリーズとか、他の短篇たちとともに一冊にまとめて欲しいものですが、いかがでしょうか、早川書房さま。密室マニアはこぞって買うと思いますよ(w)。

さて、原書房から出た『虚空から現れた死』は、ロースンがスチュアート・タウンという別名義で、パルプ雑誌に書いた中篇を二つ収めたもの。探偵役は、ロースン名義の最終長篇『棺のない死体』にもチラッと顔を見せる奇術師、ドン・ディアボロです。ロースン名義の探偵役も奇術師のグレイト・マーリニですから、これはカー名義のフェル博士と、ディクスン名義のヘンリー卿みたいな使い分けなのかもしれません。さしずめ、マーリニがフェル博士、ディアボロがヘンリー卿の位置づけでしょうか。パルプ雑誌のヒーローだけあって、ディアボロのほうがケレン味にあふれているからです。

収録されている中篇は『過去からよみがえった死』と『見えない死』。連続して書かれたもののようで、あとの作品には前の作品の内容に対する言及があります。といっても、ネタばらしにはなっていませんが。いずれも中篇としては長めの分量で、ロースン特有のゴテゴテ感が目につく一歩手前、という感じの出来映えです。

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『過去からよみがえった死』
50万ドル相当の宝石が、いつの間にか金庫から消え失せていたという事件が起こり、警察は頭を悩ませていました。金庫の番号は持ち主しか知らず、詐欺や狂言の可能性もないため、どうやって金庫を開けたのかが謎だったのです。

さて、奇術師ドン・ディアボロは、消失マジックなどで人気を集めていました。ある夜、ステージを終えた彼の楽屋に、ピストルを持った若い女が訪ねてきます。助手のチャンが、奥の部屋にいるディアボロに知らせているとき、楽屋から物音が聞こえ、2人がそちらに行ってみると、部屋の中を大きなコウモリが飛び回っており、女は死んでいました。

出入り口にはカギがかかっていて、秘密の方法でしか開けられません。ドアの外にいた男も、誰も出入りしていないと証言します。窓は開いていましたが、通りまでには5階ぶんの高さがあり、普通の人間が逃げ出すことは不可能でした。死体の首には吸血鬼の噛み痕のような傷があり、まるで吸血鬼がコウモリに変身して殺害したかのようでした。警察が駆けつけ、容疑はディアボロにかかります。しかし彼は、刑事の目の前で奥の部屋に入ると、そのまま消失してしまうのでした……。

このあと、降霊術を使う怪しい伯爵や、殺人鬼ジル・ド・レの霊が変異したというコウモリ男が登場、冒頭に語られた宝石盗難事件とも絡んで、少年探偵団もかくやという大活劇が始まります。解決編は少々拍子抜けの感もありますが、謎の詰め込まれたサービス精神旺盛な作品で、特にディアボロが刑事の目の前から消失するトリックは、エドワード・D・ホックを思わせるスマートさです。

『見えない死』
物体を透明にする光線を発明したというパルガー博士が失踪。捜査にあたったヒーリー巡査部長も、白昼、男が消えるのを目にして、上司に報告するため市警察本部に戻ります。連絡を受けたチャーチ警視がヒーリーのいるオフィスのドア前に来たとき、中から銃声か響いて、鍵がかけられる音がします。警視が鍵を壊して中へ入ると、ヒーリーは射殺されていました。部屋には他に誰もいないと思ったその時、どこからか「また会おう、警視!」という声がして、チャーチが入って来たドアが勝手に閉まります。

警視はドアを開けて廊下に出ますが、そこにいた刑事たちは誰も見ていないと主張するのでした。おまけに現場のデスクの上からは、インド美術館からシヴァ神像を盗み出すという、「見えない男」と署名のある予告状が見つかります。さて、それと同じころ、ディアボロのもとを大富豪で収集家のベルモントが訪れていました。こちらにも、「見えない男」から、彼の貴重なコレクションである「アントワネットの首飾り」をもらう、という予告があったというのです。

インド美術館には厳重な警戒が敷かれますが、「見えない男」はその裏をかきます。ディアボロは仲間のマジシャンを引き連れて首飾りを護衛しに行き、プロならではの予防線を張りますが、こちらもまんまと盗まれてしまいます。しかもディアボロは、警察に疑われた上、「見えない男」の一味の手にもかかって、絶体絶命の危機に陥るのでした……。

これは掛け値なしの傑作。トリックはシンプルですが、ミスディレクションが非常に巧みなため、完全に盲点を突かれました。こんなの、どうやって解決するんだというほどの謎めいた状況が続きますが、すべてが合理的に、しかも必然性があったことが説明されます。事件の裏に隠された真相は納得のいくもので、犯人の意外性も充分です。
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ロースン名義で書かれた作品と雰囲気が違うのは、これがパルプ雑誌向けの作品だったということに起因するのでしょう。しかし、セオドア・ロスコーの『死の相続』がそうであったように、パルプ作品だからといって舐めてかかると足下をすくわれます。ディアボロものの中篇は、あとふたつ残されているそうですが、これらが収められた単行本は非常な稀覯本で、『天井の足跡』が出た12年前の時点では、ミステリ研究家の森英俊さんでさえ入手に苦労されていた様子。『虚空から現れた死』の解説をみると、めでたく発見されたようですので、翻訳紹介される日が待たれます。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

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