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zoom RSS 『物しか書けなかった物書き』 を読んで。

<<   作成日時 : 2007/09/16 23:55   >>

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乱歩が“奇妙な味”と呼んだ、ちょっと不思議なタイプのミステリがあります。が、奇妙を通り越しているのが、ロバート・トゥーイという作家です。

このところ、早川書房の“異色作家短編集”シリーズが復刊されたり、論創社が“ダーク・ファンタジー・コレクション”なんていうのを始めたりと、この“奇妙な味”系の作品を集めた本を見かけることが多くなりました。おそらく、5年ほど前に晶文社から、ジェラルド・カーシュの短編集『壜の中の手記』(現在は角川文庫)が出て、それがそこそこヒットしたあたりからでしょうか。

“奇妙な味”という言葉が使われるようになったのは、乱歩が短編ミステリのベストテンを選出しようとした際、2種類の表を作ってしまったことに端を発しています。この2種類のベストテンは、それぞれ「謎の構成に重きを置く場合」と「奇妙な味に重きを置く場合」と題されていて、選ばれた作品には重複がありません。ここで改めて、両方のペストテンにどんな作品が入っているのか、おさらいしてみましょう。なお、アタマに“○”が付いているのは、2種類に分けなかった場合のベストテンとしているものです。

 「A・謎の構成に重きを置く場合」
  『モルグ街の殺人』 エドガー・アラン・ポオ
  『唇のねじれた男』 アーサー・コナン・ドイル
 ○『オスカー・ブロズキー事件』 オースティン・フリーマン
  『レントン館盗難事件』 アーサー・モリスン
  『ブルックベンド荘の悲劇』 アーネスト・ブラマ
 ○『ドゥームドーフ事件』 メルヴィル・デヴィッスン・ポースト
 ○『見えない人』 ギルバート・キース・チェスタトン
  『13号独房の問題』 ジャック・フットレル
 ○『茶の葉』 エドガー・ジェプスン&ロバート・ユーステス
  『密室の行者』 ロナルド・A・ノックス

 「B・奇妙な味に重きを置く場合」
 ○『盗まれた手紙』 エドガー・アラン・ポオ
 ○『放心家組合』 ロバート・バー
 ○『赤毛連盟』 アーサー・コナン・ドイル
  『奇妙な足音』 ギルバート・キース・チェスタトン
  『二瓶のソース』 ロード・ダンセイニ
 ○『銀の仮面』 ヒュー・ウォルポール
 ○『オッターモール氏の手』 トマス・バーク
  『うぐいす荘』 アガサ・クリスティ
 ○『偶然の審判』 アントニイ・バークリー
  『爪』 コーネル・ウールリッチ

改めてこれらの表を見てみると、それぞれA・Bのどっちに入れるべき作品なのか、その基準があいまいな気もします。たとえば、『銀の仮面』とか『オッターモール氏の手』は、確かに奇妙な味としか言いようがありません。でも、『盗まれた手紙』や『赤毛連盟』などは、Aのほうに入っていてもおかしくない。逆に、『密室の行者』とか『見えない人』は、奇妙な味のほうに入れても良いような気がします。

もともと、本格系の作品と奇妙な味の作品を、同じ物差しでは計りにくいから、という理由で2つに分けたはずなのに、その基準がはっきりしていないわけです。乱歩自身は、このへんをどう言っているのかというと、「どうも一口では説明出来ない」ので、『放心家組合』と『二瓶のソース』を読んでくれ、と逃げてしまっています(随筆集『幻影城』より)。しかし、『放心家組合』はドイル系の本格作品でありながら、同時に奇妙な味の物語でもあるので、この選択は正しいんだろうか、とも思います。

私にとって、奇妙な味という言葉を象徴するのは、やはり『銀の仮面』と『オッターモール氏の手』です。どう奇妙なのか説明してくれ、と言われると、やはり「読んでみてね」と言わざるを得ないのが悔しいですが……。でも、確かに言えることは、最近いろいろと出ている奇妙な味系の作品集の中でも、このロバート・トゥーイはその奇妙さが突き抜けている、ということです。

トゥーイ自身、かなりの変わり者だったようで、現在はエージェントに問い合わせても消息不明とのこと。作家になる前にいろいろな職業を転々とした、というところはジェラルド・カーシュに似ていますが、結婚に失敗して作家を一時休業し、タクシー運転手をやっていた、という経歴は何だかジャズピアニストのデューク・ジョーダンを連想させます。

『物しか書けなかった物書き』の収録作品のほとんどは、「ミステリマガジン」と今はなき「EQ」に掲載されたものばかりで、初紹介作品は全14篇中2つだけ。法月綸太郎のセレクトらしいですが、未訳作品をもっと入れて欲しかったなあ、というのが正直な感想です。収録にあたって、ある程度の改稿はされていますが、基本的には雑誌掲載時の訳が使われています。そのため、訳文に統一感がなく、5人いる訳者の、レヴェル的な差を感じる部分もあります。

各作品については、巻末に法月綸太郎の丁寧な解題があるので、ここで屋上屋を架することもないでしょう。私のイチ押しは、法月が「ミステリの底が抜けてしまったようなラスト」と評している『階段はこわい』。初訳の『オーハイで朝食を』も素晴らしい出来だと思います。巻頭に収められた、もうひとつの初訳作品『おきまりの捜査』は、フレドリック・ブラウンの名作『うしろを見るな』を思わせます。

法月は表題作『物しか書けなかった物書き』もブラウン風だと書いていますが、私にはネルスン・ボンドの『SF作家失格』のほうが近いような気がします。SF的なシチュエーションで書いたポオの『黒猫』みたいな話で、何とも言えない味わいの傑作です。また、風変わりなフーダニット作品『完璧な犯罪』は、乱歩の上記ベストテンに選ばれている、ある奇妙な味の作品がモチーフになっていて、しかも編集者エラリイ・クイーンがゲスト出演しているというもの。

しかし、おそらくこの本を読み終えて、一番印象に残るのは、“恐怖のジョーク男”と法月が名付けたキャラ、ジャック・モアマンが登場する『支払期限を過ぎて』と『家の中の馬』の2篇でしょう。噛み合わない会話と「消防署のほうから来ました」的なセリフの洪水に圧倒されてしまいます。そのほか、ヒッチハイクの男を乗せたらゾンビだった、という『予定変更』とか、アル中の三流ハードボイルド作家が創造した私立探偵が作者に抵抗しはじめる『いやしい街を…』などなど、どれをとっても粒ぞろいです。もっと初訳作品をたくさん収録した第2集が出版されることを、願ってやみません。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

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