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zoom RSS 『首鳴き鬼の島』 を読んで。

<<   作成日時 : 2007/12/11 23:54   >>

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これは新世紀における横溝正史型ミステリの秀作。特に結末部は非常に素晴らしい出来映えで、もっと高く評価されるべき作品だと感じます。

実は、三分の一ほど読み進んだところで作者の狙いがぼんやりと見え始め、犯人の見当もついて、しかもそれが最終的には当たっていたのですが、それでも物語の面白さは減ずることがありませんでした。三段構えになっている結末部の展開では、謎がキッチリ解かれる気持ち良さと、どんでん返しの快感を同時に味わうことができます。捨て推理に使われているロジックも綺麗で、久々にプロットに堪能できる物語を読んだ、という気がしました。

石崎幸二という作家は、『日曜日の沈黙』(講談社ノベルス・品切れ)でメフィスト賞を受賞したのが2000年。この賞にしては珍しい、普通の本格ミステリかと思いきや、だんだん変な方向に走り始める、楽しい作品でした。そこに登場させた女子高生コンビ、ユリア&ミリと、冴えない独身サラリーマン・石崎幸二という3人をレギュラーにしたシリーズを4作目まで書いたのが2002年。そこでパッタリと新作発表が絶え、講談社ノベルスから出ていたその4冊もすべて品切れになっていて、なぜか一切、文庫化もされていません。現役の新刊書で読めるのは、5年ぶりの新作となった、この『首鳴き鬼の島』(東京創元社)だけです。

2作目『あなたがいない島』と3作目『長く短い呪文』が、どちらも孤島ものだったのに引き続き、この第5作も連絡が遮断された島での連続殺人もの。ただし以前のレギュラーキャラたちは姿を消し、石崎ミステリの特徴だった天然ボケ的ユーモア(「小野妹子は叙述トリックだ」とかいうやつw)も影を潜め、メフィスト賞系の作風から一転、古典的な本格ミステリの構造を持った作風に転換してしまったようですね。もっとも、今回の主人公のヘタレっぷりには、これまでレギュラーだったサラリーマン石崎が投影されているようにも感じます。

シリアスきわまりない事件が連発するにも関わらず、作中人物たちの緊迫感が伝わってこないのは不満ですし、中盤の展開には首をかしげるところもいくつかあります。このへんは、今後の課題といったところでしょう。もともと、文章のうまい人ではありませんでしたが、これまでは作風ともあいまって、そんなに粗さが目立つことはありませんでした。しかし本作では、状況を説明する力の弱さが、要所要所で表面化している気がします。

たとえば、舞台となる館の描写。5階建ての柱みたいな建物が2つ並んで建っていて、その4階部分が渡り廊下で連結されており、全体としては「H字型」になっているというもの。なんとなくイメージはできるのですが、部屋や階段の位置といったものがどうなっているのかよくわからず、図面もないので、事件発生時の人物たちの動きが感覚的に掴みにくいのです。まあ実際には、密室が出てくるわけでもなければ、細かなアリバイトリックがあるわけでもなく、大ざっぱなことさえわかっていれば謎解きには充分なタイプの話なので、支障はないんですけれど。

人物たちの描写にも、あまり精彩がありません。どういう人間なのかよくわかるのは、主人公と友だち、そして島のオーナーである老実業家の3人ぐらい。はじめに殺されてしまう連中なんて記号みたいな扱いに近く、セリフすらほとんどありません。私が、早々に犯人の見当を付けてしまったのも、半分はそういう細部の甘さのためでしょう。石崎ミステリは、最近の本格系作家が重厚長大路線に突き進みがちなのに反して、コンパクトにまとめているところが手柄だと感じるんですが、今回の場合でいえば、余計なエピローグなんかを入れるより、もっとレッドヘリングを泳がせる工夫をするべきだったのでは、と思います。

主人公・稲口は、そこそこの資産家の家に生まれながら、大学卒業後も就職せず、小説家を志望していた男。そのきっかけは、片思いしていた同じサークルの女性、神合茜(かみごう・あかね)の何気ない一言であり、その茜に彼氏ができたと言ってはやけ酒を飲み、別れたと言っては祝杯をあげるようなヘタレでした。小説家への夢も挫折寸前にあり、結局は母親が持ち込んできた話に乗っかって出版社に就職しますが、すんなり採用されたのは裏で父親が影響力を行使していたためだったというダメっぷりなので、就職後、偶然再会した茜と時々会うようになった現在でも、2人の仲はまったく進展していません。

その稲口は、怪奇スポットを取り上げるという雑誌の企画で、竜胆グループ会長・竜胆恭蔵(りんどう・きょうぞう)の持つ島・頸木島(くびきじま)に取材に出かけることになります。「首鳴き鬼」という怪談の舞台になったのが、この島なのではないかという噂があったからです。この怪談はそれほど有名なものではありませんでしたが、稲口と茜が学生時代に所属していたサークルで一時話題になったことがあり、伝承の中身についても詳しく解説した本が、かなり以前に出版されていました。

この本に書かれた「首鳴き鬼」の怪談とは、こういう話です。「鎌倉に、夜な夜な赤鬼が出没して人を襲っていた。討伐隊は何度も返り討ちにあう。が、ついにある武士によって右腕を切り落とされ、鬼は逃亡。その腕を取り返すため、再び鬼が戻って来るが、今度は左腕を切り落とされて、また逃亡。両腕を取り返しに、また鬼が戻ってくるが、首を切断されてまたまた逃亡。しかし、鬼の首は胴体を求めるかのように鳴き続けたため、件の武士は首と両腕を持って、ある島に渡る。しかし、胴体と脚だけの鬼が島まで追いかけてきたので、とうとう武士は鬼の頭を砕き、火をつけるが、胴体だけは海水で濡れていたため、燃え尽きなかった」。

さて、竜胆グループは外部からの取材を受けない企業として知られており、今回もダメ元で申し込んだのでしたが、なぜかあっさり、泊まりで取材OKだと、会長の息子・慎一郎から稲口に直接電話があったのでした。稲口がその話を茜にすると、自分も行きたいと言い出したため、彼は会社に無断で、茜をライターだということにして同行させます。頸木島は完全な孤島で、慎一郎が建てた「頸木館」のほかには、古びた「首鳴き堂」というお堂があるのみ。グループ関係者以外の人間は住んでおらず、本土との往復には自家用クルーザーが使われていました。

慎一郎は変わり者で、仕事にはあまり熱心ではなく、普段はこの館に引きこもったような生活をしています。父親である会長と、その姉・輝子は、館を時々しか利用していませんが、この日はある用件のため、島に滞在していました。慎一郎がまだ中学生の時に、家庭教師をしていた女性に産ませた娘・美紗子が見つかり、竜胆グループの後継者選びに波紋が広がっていたからです。母親がすでに亡くなっているため、美紗子が本当に慎一郎の娘だという確たる証拠がなく、慎一郎の伯母である輝子は、完全に疑ってかかっていました。実はその昔、妊娠中の美紗子の母親を無情にも追い出したのは、その輝子だったのです。

島にはほかに、慎一郎の助手的な仕事をしているアルバイト学生の長瀬、会長の秘書である槌田、竜胆グループの情報調査課に所属する田部井と鈴森という2人の社員、そして料理人とお手伝いの塚本夫婦がいます。竜胆グループでは、しばらく前から機密情報の漏洩が疑われており、槌田・田部井・鈴森の3人はその調査も兼ねて、この島に1ヶ月あまり前から滞在しています。消息不明だった美紗子を見つけ出してきたのも、田部井と鈴森の2人でした。また、会長と親しい大学教授のもとで助手をしている影石という男も招かれていましたが、彼は偶然にも稲口の旧友でした。学生時代、茜のことでやけ酒を飲んだのは、この影石の部屋でだったのです。

反目し合う輝子と美紗子が口論となり、険悪なムードが漂ったディナーのあと、稲口と影石は会長に誘われて、娯楽室で一緒に飲むことになります。しばらくすると、館内で不気味な鬼の鳴き声のようなものが聞こえ、それが止まったすぐあと、槌田秘書が3人のもとに飛び込んできて、会長の部屋で田部井が殺されていると告げます。驚いた面々が行ってみると、田部井はブリーフ一枚の裸で床に転がっており、首には絞められたあとがあって、しかも右腕が切り落とされていました。

急を知らせるため、稲口たちは全員に声を掛けて、食堂に集めようとしますが、鈴森の姿が見あたりませんでした。田部井は明らかに他殺であり、出入り口は全て施錠されていたので、犯人は館の中にいる疑いが強まります。警察に連絡しようにも電話が通じなくなっており、台風接近のためクルーザーも使えず、無線も故障しています。そこでまず鈴森を捜し出そうとするのですが、その矢先、またオーンオーンという叫び声が響きはじめ、そのほうに行ってみると、影石の部屋の中で鈴森が、田部井と同じような状態で殺されていました。しかし今度は、右腕だけでなく、両腕が切り落とされていたのです……。

資産家の一族、孤島、古い伝承に見立て殺人とくれば、どうみても横溝正史の世界です。連続殺人を阻止できない探偵役という点も、横溝ワールドをなぞっているかのようです。実際、この物語は「古い皮袋に新しい酒」の典型みたいな書かれ方をしています。科学捜査が進歩したことによって使えなくなってしまったトリックやシチュエーションを書くために、わざと事件発生時期を古い時代に設定しているミステリがよくありますが、この『首鳴き鬼の島』では、いわばそれを逆手に取ったようなというか、「科学捜査が進歩したからこそ成立する物語」になっているんです。横溝が若い作家としてこの現代に生きていたら、こういうミステリを書いたかもしれない、と思わせるものがあります。

それだけに、イマジネーションの膨らみが少ないのは残念です。重要な登場人物と、そうでない人物にかける描写量が明らかに違うのも、テクニック的に未熟だと思います。しかし、それを補って余りあるほど、結末部の展開は優れています。文章も、別に日本語としておかしいとか、読みづらいとかいうわけではないので、イメージが湧きにくい箇所は適当に読み流しておけばいいと思います。ただ、中盤で解説される科学的な話の部分は、もう少し工夫が欲しかったところ。分量はあの半分以下にまとめたほうが、いろんな意味でスッキリしたでしょう。

※この記事はブログ村 ミステリー・推理小説にエントリーしています。

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