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zoom RSS 『ジェネラル・ルージュの凱旋』 を読んで。

<<   作成日時 : 2008/02/01 23:51   >>

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海堂尊の作品に共通する欠点を、私はとうとう見つけてしまいました。それは、主役たちが、いろんな意味でカッコ良すぎることです(w)。

『ジェネラル・ルージュの凱旋』は、『チーム・バチスタの栄光』および、『ナイチンゲールの沈黙』(いずれも宝島社)に続く、東城大学医学部付属病院を舞台にしたシリーズの第3弾。他の出版社からも、シリーズ外伝のような感じの『螺鈿迷宮』(角川書店)と『ブラックペアン1988』(講談社)が出ています。デビューから2年足らずの間に、これ以外の作品も書いていて、しかも、どの作品も水準を超えた面白さを持っているのですから、その旺盛な創作力には驚かされます。

作者は、いまだに勤務医(元外科医、現在は病理医だそうです)を続けていて、専業作家になるつもりはないらしいですから、ハードな生活が想像はされますが、今のペースが体質に合ってもいるんでしょうね。作品中で繰り返し言及されているオートプシー・イメージング(死亡時画像病理診断・略称はエーアイ)を社会制度として導入していくことが、作者の本業(?)における現在の仕事だとのことなので、ひょっとするとこれらの創作って、趣味と実益と主張を兼ねたようなものなのかもしれません。

いずれにしても、海堂尊がこれまでの「このミス大賞」受賞者の中で、最も成功した人であるのは間違いないところ。他の受賞者があまりパッとしないのも確かですが、作者の活躍ぶりは飛び抜けています。私は、『チーム・バチスタの栄光』が受賞したときに同時に発表された、水田美意子の『殺人ピエロの孤島同窓会』(宝島社)が、12歳の女の子が書いたということ以外に読みどころのない低レヴェル作品であるにもかかわらず、「特別奨励賞」なるものを受けて刊行されて以来、「このミス大賞」の選考にはまったく信を置いていません。実際、ロクな作品がありませんし。

「このミス」が定番のランキング本として認知されるようになったことが、「このミス大賞本」の面白さを保証しているわけではないのに、私には何となく、そういう勘違いを狙っているような気がしてなりません。もちろん、「公平を期すため、弊社発行の作品は(ランキングの)投票対象外となっています」という宝島社の姿勢は評価すべきなんでしょうが、これとて、山崎豊子の『白い巨塔』(新潮文庫)の中で、第一外科の教授選挙を棄権してしまう東教授のようなイヤラシさを感じてしまうのです(w)。

話がそれてしまいました。『ジェネラル・ルージュの凱旋』は、これまでの海堂作品の中で一番面白いと思います。あとの作品になるほど、ミステリ性が薄れていると言われることが多いようですが、私はそうは思いません。確かに、この作品ではシリーズ前2作と違い、殺人事件は起きませんけれど、謎解きの興味ということで言えば変わりませんし、専門知識がないと真相を見破ることが困難な『バチスタ』と比べると、『ルージュ』はフェアプレイであって、伏線や手がかりの潜ませ方はかなり進歩していると感じるからです。

物語の冒頭、“伝説の歌姫”と呼ばれるシンガーが大量吐血して、東城大学病院の救命救急センターに担ぎ込まれるシーンが描かれていて、この『ルージュ』がシリーズ前作『ナイチンゲール』と同時に起きた話を描いたものであることが示唆されます。実際、読み進んでいくと、ストーリーが進行していく時間的なペースもほぼ同じで、この2冊にまたがったエピソードも挿入されます。しかし、特に重要なからみがあるわけではないので、どちらを先に読んでも全く問題はないと思います。

シリーズものですから、第1作『バチスタ』から読むのが自然なんでしょうけれど、私としてはこの『ルージュ』を最初に読む、という選択もアリかなあ、と考えます。なぜかというと、『ルージュ』の中には、正体が伏せられている登場人物が1人いるんですが、この人物のことについて『バチスタ』でかなり詳しくコメントされているからです(登場はしません)。つまり、『ルージュ』を読んでも『バチスタ』のネタバレはないのに、『バチスタ』のほうでは『ルージュ』の謎めいた登場人物の正体を割っているので、いわば逆ネタバラし構造になっているんです。

もちろん、作者としてはそれでも良いと考えて書いているんでしょうが、純粋に『ルージュ』の面白さを味わうならば、『バチスタ』の前に読んだほうが良いかもしれません。しかしまあ、『バチスタ』は文庫化されましたから、もう手遅れ、という方も多いでしょうね。すでに読んでしまった方には、しばらく時間を置いて、記憶がちょっと薄れてから『ルージュ』に取りかかることをオススメします(w)。といっても、そんなに大したことでもないので、こだわる必要もないんですけど。ちなみに、この人物は『螺鈿迷宮』でも活躍します。

物語の舞台は、東城大学医学部付属病院の救命救急センター。タイトルになっている“ジェネラル・ルージュ(血まみれ将軍)”とは、その部長をつとめている医師・速水晃一のことです。このあだ名は、現在40代である速水が若いころに起きた、ある事件をきっかけに付けられたもの。これがひとつのモチーフとなって、ストーリー全体を彩っています。“伝説の歌姫”と呼ばれる水落冴子が吐血したとき、その歌を聴きに来ていた若手看護師・如月翔子が強引に救命救急センターに担ぎ込み、おかげで彼女は一命を取り留めたものの、病院内の指揮系統を乱したかどで叱責されるところからストーリーが動き始めます。

翔子は看護師としては優秀なのですが、“ICUの爆弾娘”という異名をとる問題児。そのため、次期総師長候補で“ハヤブサ”と呼ばれる師長・花房美和に睨まれています。が、そんな事情を抱えたICUの看護師たちも、速水部長を中心としたチームワークでは一枚岩の結束を誇っていると思われていました。しかしそんなある日、不定愁訴外来主任・血を見るのが嫌いで神経内科を選んだという万年講師の田口公平のもとに、「速水部長が医療代理店と癒着して収賄しており、花房師長は共犯である」と手書きされた匿名の文書が届けられます。詳しい事情を知る、ICU内部の人間からの告発と思われる内容でした。

速水は、救急医療充実のためドクターヘリの導入を悲願としていましたが、購入にも維持にも億単位の金がかかるため、話は全く進んでいませんでした。救急医療にそれほど打ち込んでいる速水がワイロを手にして私腹を肥やすなどとは信じられず、田口は病院長・高階教授に話を持ち込みます。すると高階は、半年前に立ち上がったエシックス・コミティ(倫理問題審査委員会)に問題解決を任せることを提案します。しかしこのエシックスは、田口に剥き出しの敵意を持つメンバーで固められた、超強力な委員会だったのでした……。

というわけで、今回も舞台は同じ大学病院、探偵役とワトスン役も同じ、共通する登場人物も数名。しかし、『バチスタ』の主役のひとりである厚生労働省の調査官・白鳥圭輔の活躍シーンは少なく、控え目になっています。それより今回は、田口の前に立ちはだかるエシックスのメンバーたち、とりわけ、そのボスである沼田助教授という人物が出色の出来映えで、対決シーンをいやがおうにも高めてくれます。物語の終盤では、ある大惨事が桜宮市を襲うのですが、それをきっかけにストーリーのすべてが収束していくさまは、胸のすくような見事さです。まあ、最初に書いたように、主役たちがカッコ良すぎて、セリフにわざとらしさを感じるのも事実なんですけど、それもまた良しでしょう。

登場人物は『バチスタ』と比べると多いですが、書き分けはかなりハッキリしていますし(類型的とも言えますが)、ネーミングのセンスも良い感じなので、混乱することはないでしょう。田口の一人称で語られていた『バチスタ』と異なり、この作品では視点が複数の人物間で切り替わっていく書き方になっています。短い間ですが、作者の着実な進歩はそういうところにも見られ、この視点切り替えも効果的に機能していると思います。私は『バチスタ』の中で、田口がキャラに合わない“俺”という一人称を使っていたことに、かなり違和感をもっていました。それもなくなったので、とても気持ちよく読み進められました。

さてこの本、『ルージュ』というタイトル通りに赤を基調とした装丁になっており、『栄光』の表紙が黄色、『沈黙』がブルーと、3色がうまく使い分けられていることからしても、当初からシリーズとして構想されていたことは間違いないだろうと思いますが、それにしては、ずさんな点が1つあります。それは、『バチスタ』が2月、『ナイチンゲール』と『ルージュ』は同じ年の12月の話であることが、本文中で触れられているのに、曜日の関係が狂っている、ということ。大したことじゃないですが、ちょっと気になります。こんなの、編集者がちゃんと見つけなきゃいけないミスだと思うんですが……。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
本はそれほど読まないんですが、「チームバチスタ」は
読んで面白かった作品です。
ただ前半で田口に肩入れしすぎて、後半白鳥が田口を
上回る濃いキャラで、ちょっと置いてゆかれかけた(笑)
その後の2冊を紹介してもらったので、機会があれば
読んでみようかと思ってます。
銀河系一朗
2008/02/18 22:26
田口はたぶん、作者の分身的存在なんだと思いますよ。ダサいようでカッコ良い部分も持ってますし。田口のファンなら、『ルージュ』はかなりオススメかもしれません。
のちんかん
2008/02/19 02:01

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